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▲可愛い後輩の栄光を、佑介騎手が祝福 (撮影:山中博喜)


二冠への期待を背負ったサートゥルナーリアが、1.6倍の支持を集めた第86回日本ダービー。詰めかけた11万人の大観衆の前を先頭で駆け抜けたのは、サートゥルナーリアの同厩で浜中騎手が騎乗する、12番人気のロジャーバローズでした。2ケタ人気馬のダービー制覇は53年ぶり。

歓喜の瞬間を京都のジョッキールームで見守った藤岡佑介騎手。「浜中! 浜中!」の大合唱だったといいます。公私共に親しくしている可愛い後輩・浜中騎手の栄光を、ふたりで振り返ります。

(取材・文=不破由妃子)


レース後、下唇を噛んでいたシーンの真相


佑介 ハマ、ダービー優勝、おめでとう!!!

浜中 ありがとうございます!

佑介 面白い展開になったなと思って見ていたけど、正直今年は上位人気3頭が強いと思っていたから、まさか粘り切るとは…。後輩たちは直線の半ばあたりで「浜中さん! 浜中さん!」て叫んでいたけど、あのペースだったこともあって、俺はまだ「まさか…」という気持ちが強くて声は出なかった。

 でも、さすがに残り100mくらいで「ここまできたら勝てー!!!」って叫んだわ(笑)。もう京都のジョッキールームは「浜中! 浜中!」の大合唱だったよ。

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▲佑介騎手「さすがに残り100mくらいで“ここまできたら勝てー!!!”って」 (撮影:山中博喜)


浜中 うれしいですねぇ。ホントにありがとうございます。

佑介 ゴールした瞬間は、みんな「やったぁー!」みたいな感じだったんだけど、そのあとハマがずっと内を見ていたでしょ? だから今度は「どこ見てんねん!」で盛り上がって(笑)。

 審議のランプが点いているかもしれないと思って掲示板を見るパターンはあるけど、ハマの場合はずっと1頭で走っていたし、ゴール前も際どくなかったのに。

浜中 ですよね。自分でもよくわかりません。確かに普通なら勝ったと確信できるくらいの着差だったと思うんですけど、あのときは心のなかで「たぶん残っているな」と思いつつ、いっぽうで「いや、ウソだろ!?」という思いがあって。それで内を見たり外を見たり…。正直言って、パニックでした(笑)。

佑介 そうだろうなぁ。だってダービーだもん。それにしても、なぜかずっと下唇を噛んで変な顔をしてたよな。俺はずーっとそれが気になってた(笑)。

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▲浜中騎手「内を見たり外を見たり…。正直言って、パニックでした(笑)」 (撮影:山中博喜)


──下唇を噛むことで、涙をこらえていたのでは?

浜中 いえ、そうじゃないんです。パニックになると、そういう顔をしてしまうんですよね。ただの癖です(笑)。それくらい自分でも驚きが強くて。「まさか…」っていう感じでしたからね。

リオンリオンが外枠に入ったことでの勝機


──レース後のインタビューでは、「イメージしていたプランのなかで、一番理想的な形になった」とおっしゃっていましたね。改めてレースを振り返っていただけますか?

浜中 はい。もともとリオンリオン(7枠15番・15着)がハナにいくだろうとは思っていたんです。しかも外枠だったから、かなり押していってくれるのではないかと。

佑介 逃げたい馬が外枠から押していくと、そのぶん全体のペースも速くなるもんね。

浜中 そうです、そうです。僕としては、ペースが流れたうえで、その後ろで脚をタメられるのが理想だったので。僕自身が逃げるのも選択肢のひとつではあったんですけど、できれば逃げたくはなかったし、その点リオンリオンが外枠に入った時点でやりやすくなったなと思っていました。実際、僕にとって一番いい展開になりましたからね。

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▲浜中騎手「リオンリオンが外枠に入った時点でやりやすくなった」 (撮影:山中博喜)


──離れた2番手を追走し、向上面では浜中さんご自身も3番手以下を突き放す形に。あれは意図したものだったんですか?

浜中 いえ、意図的に離したわけではないんですけど、こちらが待つ展開にはしたくなかったので、自分からどんどんいこうとは思っていました。そうすることで、後ろに脚を使わせる展開に持ち込みたかった。

佑介 確かにあの展開になったら、後ろは脚を使わざるを得ない。まさに読み通りだったわけだ。

浜中 はい。結果的に単騎先頭みたいな形になって、馬もストレスがなかったぶん、息も入りましたからね。

佑介 直線も後ろを待たずに攻め切った感じだよな。

浜中 直線に入ったら、もうガンガンいこうと思っていたので。前走の京都新聞杯で初めて乗せてもらったんですけど、そのときもバテずに頑張ってくれましたからね。だから、差されてもしょうがないと腹を括ってガンガン攻めることができました。

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▲「直線に入ったら、もうガンガンいこうと思っていた」と浜中騎手 (撮影:下野雄規)


佑介 そこが勝因だと思うよ。そうやって攻めの騎乗に徹したことで、ロジャーバローズの持てる能力と特性を最大限に引き出したわけで。たぶん、直線で少しでも後ろを待っていたら勝てなかったと思う。それに応えた馬も強いよね、ホントに。

浜中 それはもちろんです。馬に力がなければ、あの展開で勝ち切るのは難しかったと思います。でも、もし僕の馬が人気馬だったとしたら…。

佑介 もうちょっとジックリ乗るよな。

浜中 はい。あんなに早いタイミングでは追い出せなかったでしょうね。そういう意味では、人気がなかったからこそ思い切って乗れたというのは正直あります。

──断然1番人気のサートゥルナーリアがテン乗りで、その点も注目を集めたダービーだったと思うのですが、先ほど「前走もバテずに頑張ってくれていたから…」と言及したように、やはり前走の経験、そこで得た感触は大きかった?

浜中 そうですね。今回のダービーでいえば、前走で乗っていてよかったと思うシーンが多々ありました。

──直線以外だと、具体的にどのシーンですか?

浜中 一番は1コーナーまでのスピードの乗せ方ですね。前走で操縦性が高いこともわかっていましたから、加減の想像もついて、アプローチがしやすかったです。

佑介 ダービーの1コーナーはどうしてもゴチャつくから、そこでその馬に合ったアプローチができるのは大きいよね。僕がもしテン乗りでロジャーバローズに乗って、あれだけいいスタートを切ったら、リオンリオンが見えへんところから来ていたことを考えると、たぶんハナを取りにいっていたと思う。

 で、外から(横山)武史がきて、中途半端に競って、もっとペースが速くなって。そうなったとしたら、直線ではもう脚は残っていないよね。

浜中 そうかもしれませんね。

佑介 でも、ハマは1コーナーに入る時点で2番手と決めて抑えていたから、切り替えも早かったし、馬が落ち着くのも早かった。それを見て、当たり前なのかもしれないけど、「ああ、ちゃんとプランを持って乗っているんだな」と思ったよ。だから、勝ったこと自体にビックリしたとしても、「勝ってもうた!」というレースじゃない。やるべきことをきちんとやって、チャンスをモノにした。

 それにしても、いくら人気がなかったとはいえ、ダービーという舞台で一番やりたかった競馬ができたというのは本当にすごいこと。逆にいうと、そうじゃないと勝てないレースなんだろうな。

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▲「ダービーで一番やりたかった競馬ができたというのは本当にすごい」と佑介騎手 (撮影:下野雄規)


(文中敬称略、次回へつづく)