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▲レッドジェニアルと共に、自身3度目の日本ダービーへ挑む酒井騎手 (撮影:大恵陽子)


「東上最終便」とも言われる京都新聞杯で日本ダービーへの最後の切符を手にしたのはレッドジェニアル。鞍上・酒井学騎手にとっても5年ぶりとなる重賞制覇でした。11番人気での勝利となりましたが、その陰には「前走を負けたことで、腹をくくって乗るしかないと思った」という酒井騎手の決断が。重賞タイトルを手に挑む日本ダービーへの思い、さらにはファンの間でも話題の「パドックでの“なでなで”」の真相に迫ります。

(取材・構成:大恵陽子)


菊花賞以来の重賞制覇「ホント、嬉しかったです」


――京都新聞杯をレッドジェニアルで優勝、おめでとうございます。酒井騎手ご自身も久しぶりの重賞制覇でしたね。

酒井学騎手(以下、酒井騎手) ありがとうございます。ホント、嬉しかったです。最近、東京ホースレーシングの馬に乗せてもらっていたので、携わる方々と一緒に口取り写真を撮りたいって思いがあったんです。僕自身はトーホウジャッカルの菊花賞(2014年)以来の重賞制覇でしたね。

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▲「東上最終便」とも言われる京都新聞杯を勝利 (C)netkeiba.com


――酒井騎手がレッドジェニアルの手綱を取るようになったのは3戦目の未勝利戦からでした。コンビ初戦で勝利を挙げましたが、レース前後での印象はどうでしたか?

酒井騎手 過去のレースVTRから、スタート後に他馬を気にしてブレーキをかける面があるのかなって感じていました。でも、そういった面も慣らしていかないといけないだろうなぁという印象も同時にあったので、初めて乗せてもらった時はポジションをある程度取りに行きました。

 実際に乗った時、スタートして他馬に寄られて少し逃げるところがありましたが、その後はスムーズでした。勝負所はちょっと促していかないと自分から気持ちが乗ってこない感じはありましたが、道中でリラックスして走れれば、しまいはしっかり脚を使えるんだなって印象を受けました。

――コンビ2戦目のアザレア賞は大外枠。9頭立ての少頭数ながら、終始内から3頭目を回らされることとなりました。

酒井騎手 少頭数だからこそ、団子の競馬になるだろうなってイメージしていました。ちょっとでも内に入れるように行くかって考えたんですけど、ゲートを出てくれていつもより前目のポジションになりました。もしペースが遅くなった場合、スッと抜け出せるポジションの方がいいかなと思いその位置でレースをしたんですが、結局前に壁を作れず、道中はリラックスできずにずっと力みながら走っていました。

 直線に向く時はいい感じの手応えで先頭に立ちそうな場面もありましたが、そこから伸びきれなかったのは力みながら終始外を回っていた分でしょう。距離も勝った時より2F延びましたし(2000m→2400m)、稍重で、最後に坂がある阪神コース。負けましたが、課題が見えて次に繋がるレースにはなってくれました。

――続く京都新聞杯はこれまでで一番の好スタートを決めましたね。

酒井騎手 すんごい良かったです。ゲートの中で、前脚で2〜3回ステップ踏んで、少し重心が後ろになっているタイミングでゲートが開いたので、ポンと上手く出てくれました。スタートしてパッと見た時に横が一列になっていてどうしようかなって思ったんですが、すぐ後ろの馬を確認したらポジションを取りにきていなくてスぺースが空いたままだったので、控えてそこに入りました。

――前に壁がつくれず4着に敗れたアザレア賞での経験が咄嗟の判断につながったんですね。

酒井騎手 そこはもう意識をしていて、京都新聞杯ではとにかく前に壁を作ることが絶対条件だと思っていました。

――一方で、4コーナーでは前にズラッと馬が並んでなかなか進路がなさそうでした。

酒井騎手 3コーナー過ぎで、「内外どちらに捌いた方がいいのかな?」と考えました。周りの馬の手応えを見たりして、「直線に向く時、前の馬が内に入るだろうから、外の馬との間にちょっとでもスペースができればこじ開けていこう」って思いました。ここしかないなって。そしたら、スッとそこが開きました。

――では、差し切れると?

酒井騎手 スペースが開いてスッと反応した時の勢いからすれば「届くな」っていう感じはありました。ただ、気持ちの面で途中でやめちゃわないかなって不安がどちらかと言えばありました。なんていうのかな、まだ全然集中しきれていないというか、最後も内にモタれるような格好で走っていました。

 アザレア賞でもテンションが高かったですし、性格的な部分でまだ難しいところはあるかなって気はします。そんな中、厩舎スタッフが京都新聞杯はすごくいい形に持っていってくれていました。装鞍も先生が「厩舎装鞍にしよう」と。

初めての気持ちで迎える日本ダービー


――京都新聞杯を勝って賞金を加算したことで、日本ダービーへの出走が叶いました。

酒井騎手 ダービーを意識しすぎていなかった分、じっくり乗れたのかなと思います。レース中、みんなが1つ1つ動きが早い部分があったんですが、ひと呼吸待ったところが2カ所くらいありました。

 アザレア賞での敗戦があったからこそ「とにかく腹をくくって乗るしかない。しまいが伸びなかったら仕方ない」って思っていました。そういったこともうまくハマったかなと思います。焦って勝つ気になっていたら、一緒に動いていたかもしれないってあとでVTRを見ながら思いました。

――酒井騎手ご自身は3回目の日本ダービー騎乗になります。やはりダービーは違いますか?

酒井騎手 GIの中でも東京競馬場のGIってちょっと違うんですが、その中でもダービーは群を抜いて雰囲気が違います。お昼からジョッキー紹介もあって、そんなことはダービーだけ。お客さんの雰囲気も全然違いますね。ジョッキーの雰囲気も全然違って、レース前に普段は喋ることもあるんですが、ダービーではみんなあんまり喋らなくて、ピリッとしています。

――過去2回の日本ダービーは2014年スズカデヴィアス、2015年スピリッツミノルに騎乗。それぞれ15番人気9着、12番人気18着でした。今回は一緒に重賞を勝った馬との出走となりますから、また違った気持ちになるのではないですか?

酒井騎手 2回は正直、緊張していなかったんですが、その経験が良かったのかなと思います。今回は前哨戦を勝っている馬なので、当日はこれまでの2回とは自分の気持ちも違うのかな? って想像します。楽しみですよね。これまでより注目されると思いますし、そういう意味ではようやくまともに参加できるダービーなのかなって。

――ところで酒井騎手はパドックやゲート裏で騎乗馬の首筋などを丁寧になでる姿が印象的です。

酒井騎手 競馬場で馬がイレ込んで気持ちがカーっとなるのを落ち着けてあげる方が大事だと思うんです。可愛がっているように見えるかもしれないですが、落ち着かせるためです。

 それに、初めて乗せてもらう馬や新馬は特に触られて嫌なところはないのかも確認します。触った時にお尻を上げる馬だったら、いきなりステッキで叩いたら尻尾を振って反抗するかもしれないですから。

――さて、話はレッドジェニアルに戻りますが、2400mという距離はどうでしょうか?

酒井騎手 正直、アザレア賞の時に「ちょっと長いのかな?」って思ったんですが、最後に伸びきれなかったのは前に壁を作れず、力みながら外々を回ったことが大きい気がします。京都新聞杯のように道中リラックスすることができれば、大丈夫かなと思います。

――最後に、日本ダービーへ向けて意気込みをお願いします。

酒井騎手 いま思うのは、無事にダービー当日まで順調にいってくれることです。当日はとにかく馬の持っている力を100%…120%引き出せるように冷静に乗らなきゃいけないと思います。変に気負いすぎず、いつもですけど楽しんで乗りたいです。そして、そこにしっかり結果がついてくるような競馬をしなきゃいけないと思っています。

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▲酒井騎手「変に気負いすぎず、楽しんで乗りたい」 (C)netkeiba.com

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