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▲大阪杯でGI初制覇を飾った北村友一騎手 (C)netkeiba.com


今春のGIで、有力馬が立て続けに控えている北村友一騎手。1番人気のダノンスマッシュで挑んだ高松宮記念は残念ながら4着。翌週には乗り替わりが告げられたといいます。悔しさが消えないものの、気持ちを集中させ、アルアインと共に挑んだ翌週の大阪杯で見事GI制覇。GIジョッキーになるまで、なってからの心の変化を、赤裸々に明かします。

さらに翌週の桜花賞ではクロノジェネシスで3着に入りました。クロノジェネシスは、デビュー戦を終えた時点で「この馬はどこにでも乗りに行きます!」と宣言したほどほれ込んだ逸材。次なるオークスの舞台は2戦2勝の東京、決め手が生きる舞台です。距離延長を含め、ポイントとなるのはどこなのでしょうか?

(取材・文=不破由妃子)


乗り替わりを告げられたことで、より競馬に集中した面も


──大阪杯で悲願のGI初勝利、おめでとうございます!

北村 ありがとうございます。

──アルアインには天皇賞・秋(4着)以来となる3度目の騎乗でしたが、どんな手応えを持って臨まれたのですか?

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▲アルアインには天皇賞・秋(4着)以来となる3度目の騎乗だった (C)netkeiba.com


北村 もともと高い能力を持っていますし、乗り味もすごくいい馬なんですが、けっこう気難しくて。そのあたりが上手く噛み合えばいいなと思っていました。ただ、勝てるまでの手応えがあったかというと…。正直、そこまでの自信はありませんでしたね。

──3枠3番で、ひとつ外にエポカドーロがいて。絶好の枠順、並びだったのでは?

北村 そうですね。本当にいい枠でした。隣のエポカドーロが行って、その後ろからついて行ってという、イメージした通りの競馬ができましたね。

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▲ゴール後、勝利をかみしめているかのような北村騎手 (C)netkeiba.com


──レース後のインタビューでは、いろいろな思いを噛みしめながら答えていらっしゃるように見えました。やはり込み上げてくるものがありましたか?

北村 いや…、もともと話すテンポがゆっくりなので、噛みしめているように見えたのかもしれません(笑)。もちろん、いろんな思いがよぎりましたけど…。前の週の高松宮記念(1番人気ダノンスマッシュで4着)のことがあったので、我ながら“ここで勝つのか…”という思いもありましたし。

──高松宮記念から大阪杯までわずか1週間。気持ちの切り替えが難しかったでしょうね。

北村 はい。スムーズに切り替えることはできなかったですね。高松宮記念が終わって、その週の水曜日に「次は乗り替わり」ということを告げられて…。ショックでした。ただ、そのぶん翌週の競馬に集中できたような気がします。

──そんななかでのGI勝利。大阪杯は、大きな大きな1勝だったのではないかと。

北村 そうですね、うれしかったです。ただ、GIを勝ってからが思った以上に勝てていないので…。勝ち星をもっと増やしていかなければと今は思いますね。

──GIを勝つと、自分に求めること、自分に期待することのレベルもどんどん上がっていきますからね。

北村 自分のなかでも今、GIに照準が当たってしまっているというか。GIを勝ったことによって、GIへの思いがさらに強くなっているような気がします。

netkeibaさんでは、ありのまま書いてくださってけっこうです(笑)


──実際、こうやって取材も続々とくるでしょうしね。

北村 取材はいつになくむちゃくちゃ多いです。聞かれたことに対して繰り返し答えていくと、なんていうのか、自己暗示にかかっていってしまう気がするんですよ。自分ですごく小さい世界に入り込んでしまっているようで。

──それまで緊張なんてまったくしていなかったのに、取材の場で発した自分の言葉によって緊張感が高まってきてしまう…というような話をあるジョッキーに聞いたことがあります。

北村 わかります。ただ、最近はだいぶ取材にも慣れてきて。今は、無理に難しい言葉を使わず、自分らしく表現すればいいのかなと思っています。

──ジョッキーには誰しも波がありますが、この春は完全に北村さんに波がきていましたからね。シーズンが始まる時点で、「この春は北村さんにとって特別な春になるんだろうなぁ」と思っていましたが、ご自身でも意識されていたのでは?

北村 いえ、あまり意識はしていなかったです。もちろん、チャンスのある馬が何頭もいましたし、勝ちたいという思いは常にありますけど、“流れがきているから今のうちに…”とかそういう気負いはなくて。まぁ、いつも通りです(笑)。

──そうなんですね(笑)。でも、高松宮記念など、今まで感じたことのないプレッシャーを経験したりもしたのでは?

北村 プレッシャー…なかったですね。もともとレース前にそれほど緊張するほうではないので、高松宮記念の前の晩もいつも通りに寝て。とはいえ、GIで1番人気に乗るのは初めてだったので、自分でもさすがにいつも通りとはいかないのかなぁと思っていたんですけど、案外普通でした(笑)。

──すごい! 肝が据わってますね。

北村 肝が据わっているのかバカなのか…。そう書いておいてください。もうね、netkeibaさんでは、ありのまま書いてくださってけっこうです(笑)。

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▲「肝が据わっているのかバカなのか…そう書いておいてください(笑)」 (C)netkeiba.com


──わかりました(笑)。そういえば、2年前にご出演いただいた『with 佑』でも、ありのままの“北村ワールド”が炸裂していましたものね(笑)。そのときに、(藤岡)佑介さんが『友一は間違いなくネクストブレイクジョッキーだ』とおっしゃっていて。実際、昨年はキャリハイの90勝をマークされて、完全に流れを引き寄せた印象があります。その要因について、ご自身ではどう分析されていますか?

北村 そうですねぇ、レースが終わったあとに自己分析がしっかりできるようになったことでしょうか。『with 佑』に呼んでいただいたあたりから、平場でも単勝1倍台の馬に乗せていただく機会が増えたり、GIの舞台を経験できる機会が増えたり。そういう経験を積み重ねながら、しっかり自己分析して、それを上手く吸収できるようになってきたかなと思います。

──ということは、それまでは自己分析が上手くいっていなかったということですか?

北村 そうですね。自分のなかでは、その時々で解決してきたつもりでいたんですけど、それをアウトプットする機会が少なかったので。最近は、それが上手くレースで出せるようになってきたのかなとは思いますね。

リラックスさせることを最優先に、ゲートインまで細心の注意を


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▲桜花賞3着のクロノジェネシスと挑むオークスへの手応えは? (C)netkeiba.com


──今週はいよいよオークスです。パートナーであるクロノジェネシスについていろいろ伺っていきたいのですが、まずは桜花賞から振り返っていただけますか?

北村 前哨戦のクイーンCをすごくいい内容で終えられたので、イメージ的にはクイーンCのようなレースができればと思っていました。2枠4番という枠もよかったんですけどね。

──好スタートから前目に付けましたが、その後、接触がありましたよね。

北村 はい、3コーナーの入口で。ゲートはしっかり出てくれて、グランアレグリアの後ろという一番いいところを取りたかったんですけど、外の馬もそこを取りたかったでしょうから、その過程で少し寄られて接触する場面がありました。そこで僕の馬は少しトモを落として、バランスを崩すような形になってしまって。そのぶん、ポジションが一列下がってしまったんですけどね。

──それが競馬といえばそれまでですが、直線で外に出してからの伸びを思うと痛恨でしたね。

北村 そうですね。まぁバランスを崩したあとにもう一度リズムを整えて、直線に向いてからは本当にしっかり反応してくれましたから。そのあたり、やっぱりポテンシャルが高いなと思いますね。

──桜花賞の前に斉藤(崇史)先生にお話を伺ったんですが、デビュー戦を終えた時点で「この馬はどこにでも乗りに行きます!」とおっしゃったとか。

北村 はい。本当にいいモノを持っているなと思ったので。どこの競馬場を使うにしても、次も絶対に乗りたいと素直に思いました。

──北村さんにとって、そこまで思える馬というのは限られるものですか?

北村 限られますね、ホントに。伸びしろというよりも、その時点でのポテンシャルがものすごく高くて。新馬のときから体もしっかりしていましたしね。

──次なる舞台は2戦2勝の東京、決め手が生きる舞台です。距離延長を含め、ポイントとなるのは?

北村 東京の長い直線というのは、確かに僕の馬にとって競馬がしやすい舞台ではありますが、2400mという距離は、これまでに経験した1600mや1800mとはまったく違いますからね。そのぶん、いかに道中ロスなくリラックスして走れるかが大事になってくると思います。

 少しテンションが高めでイレ込みやすい面もあるので、スタンド前発走がカギになるかなと。リラックスさせることを最優先に、ゲートインまで細心の注意を払っていきたいです。

──そんななかでも東京への輸送を2回経験し、いずれも勝利しているというのは大きなアドバンテージですよね。

北村 そうですね。それは厩舎のスタッフさんの腕だと思っています。長距離輸送を伴いつつ、体を減らさずに結果を出してきたというのは本当にすごいこと。もともと小柄な馬ですからすごく気を遣うでしょうけど、上手に持ってきているんだなと思いますね。

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▲斉藤厩舎の初重賞制覇となったクイーンCも舞台は東京 (撮影:下野雄規)


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▲左がクロノジェネシスを管理する斉藤調教師 (撮影:下野雄規)


大好きなクロノジェネシスとGIで結果を出せたら最高です


──桜花賞に続き、最有力候補の一角として迎えるオークスではありますが、新馬戦から手綱を取ってきた馬だけあって、さすがの北村さんも力が入るのでは?

北村 いや…、高松宮記念のときもそうでしたけど、オークスの前の晩も普通に10時くらいには寝てると思いますよ(笑)。

──頼もしい限りです(笑)。ずっとコンビを組んできただけあって、馬への信頼もありますものね。

北村 そうですね。一瞬の脚もありますが、その速い脚を持続できるというのがクロノジェネシスの一番の武器。2400mに距離が延びるなかで、僕はいかにその脚を引き出すことができるかに重点を置いて乗るだけです。

 僕自身のことでいえば、この春GIを勝ったことで、これからがさらに大きな成長期と捉えています。GIはもちろんですが、平場のレースからもたくさんのことを吸収して、次のステップに進んでいきたい。まぁそれがなかなか難しいんですけど(苦笑)。

──去年がキャリアハイの90勝。今年は年明けから大爆発で、春のGIシーズンをキーパーソンの一人として迎え、実際にGI初制覇。着々とステップを上がっていますよね。

北村 去年は90勝といってもローカル開催で積み重ねた勝利なので、今年はGIが開催される中央場所で自分の土台を築きたい。それが今、僕にとって一番必要なことなんじゃないかと思っています。だからこそ今、結果を出さなければという気持ちはありますね。とはいえ、よく考えたらここ数年、毎年「今年が勝負の年」って言ってますけど(笑)。

──でも、毎年テーマが変わっているのでは?

北村 それはありますね。騎乗スタイルももっともっと変えていきたいし、レースのなかでももっと隙をなくしていきたい。まだまだ隙だらけなので(苦笑)、どんどん埋めていきたいです。

 それが今年のテーマですね。あとは、チャンスのある馬にこうして乗せていただく機会が増えたことに感謝すべきだと常に思っています。だからこそ、GIを勝てたわけですから、感謝の気持ちだけは忘れずに頑張っていきたいです。

──オークスでは、北村さんが目指す隙のない騎乗に期待しています。

北村 はい。クロノジェネシスは本当に大好きな馬。新馬からずっと乗っていきたいと思えた馬ですし、実際一緒にここまでたどり着くことができました。そんな馬と一緒にGIで結果を出せたら最高ですよね。頑張ります!

(了)

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