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▲ラヴズオンリーユーと坂井瑠星騎手(左)、吉田一成調教助手(右) (撮影:大恵陽子)


全兄はドバイの地でGI制覇を遂げたリアルスティール。2017年セレクトセールにて1億7280万円で落札されたラヴズオンリーユーがデビューから無敗の3連勝でオークスに駒を進めます。管理する矢作芳人調教師、担当する吉田一成調教助手、さらに普段の調教パートナーを務める坂井瑠星騎手も交えてお話を伺いました。

(取材・文:大恵陽子)


全兄リアルスティールに「歩き方が似ている」


 3戦3勝。桜花賞とは別路線から無敗の牝馬がオークスに駒を進めてきた。

 デビューは11月。スタートダッシュこそつかなかったが、直線で開いた内に進路を取るとしっかり伸びて勝利。2戦目・白菊賞も直線で追い出されると一気に加速して勝ち、桜花賞当日の忘れな草賞は3馬身差で勝利を収めた。

 矢作師と担当する吉田助手はラヴズオンリーユーの長所について「牝馬なのに装鞍所やパドックでも落ち着きがあるところ」と口を揃える。

「歩き方が似ている」(吉田助手)という全兄リアルスティールは、GI・ドバイターフを制覇したが、一方で「装鞍所で鞍を置くのが大変だった」というほどのテンションの高さも持ち合わせていた。

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▲ドバイターフ優勝時のリアルスティール (撮影:高橋正和)


 一般的に牝馬は環境の変化に敏感だったり様々な理由でテンションが上がりやすい馬が多いが、ラヴズオンリーユーは兄に似ず、普段から大人しいというから心強い。

 それでいて兄のいい面は引き継いでいる。

 それを証言してくれたのは坂井瑠星騎手。オークスではノーワンに騎乗予定のため、レースでは当然ライバルとなるが、矢作厩舎所属の彼はラヴズオンリーユーの普段の調教パートナーでもある。

「この馬の兄姉にはたくさん乗せていただきましたが、走り方とかがリアルスティールに似ています。リアルスティールは古馬になってから体のバランスがだんだん起きてきて、さらに走るようになりました。そういうのびしろも似たようなものを感じます。それに、バネもすごいです。初めてラヴズオンリーユーに乗った時は笑っちゃうくらい…いや、実際にすごすぎて笑ってしまっていました」

 これだけいいモノを持っていて、セレクトセール1歳セッションでも1億超えの高額評価。しかし、意外にも矢作師がその良さを感じたのは2歳秋になってからだった。

「リアルスティールは12月デビューですし、この血統は待った方がいいと思ったんです。オーナーサイドにじっくり待っていただいたおかげで、2歳の春にはまだ頼りなさを感じる馬体だったのが夏から秋にかけてすごく良くなりました。トレセンに入厩して調教を始めると『すごいや、この馬』って期待を寄せましたね」

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▲兄のリアルスティールも管理した矢作調教師 (撮影:大恵陽子)


矢作師が語るオークスならではの課題


 5月8日朝6時の馬場開門直後、CWコースで週末の京王杯スプリングCに出走予定のエントシャイデンと併せ馬を行った。追走し、直線で内から抜け出して先着。見届けた矢作師は「言うことないですね」と話した。

 続いて取り出したのはタブレット端末。データを確認しながら「心拍数の戻りが早いんですよね。息の入りが早いっていうことがデータを見ても分かります。なかなかこういう数値って出ないんですが、まだ3歳春なのにすぐに心拍数が下がって落ち着いていますからね」

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▲オークス1週前追い切り、矢作師も「言うことないです」と太鼓判 (撮影:大恵陽子)


 坂井騎手の言葉からは大きなのびしろを感じ、さらに現時点でもすでに高いレベルにあることも窺える。しかし、オークスならではの課題もある、と矢作師は不安も口にする。

「まだ成長途上の体で東京に輸送、スタンド前発走、2400m、多頭数と課題はいっぱいあると思います。ラヴズオンリーユーはいい意味でスイッチが入るのが遅いです。リアルスティールだったら鞍を置く前からスイッチが入っていましたが、ラヴズオンリーユーの場合はゲート裏に来てメンコを外した時にスイッチが入るので、そういうところはいいところだと思っています。

 ただ、そこからスイッチが入るので、レースでの折り合いは多少不安があります。まして多頭数だと、他馬と接触する可能性もあります。前走の忘れな草賞では2000mでスタンド前発走という状況だから掛かったのか、ゲートを出てすぐぶつかったことで掛かったのか…。そういうアクシデントが十分考えられるという意味では不安ですね。

 とはいえ、普段から大人しいのが長所で距離はあった方がいいように思いますし、我々は万全を期するだけです」

 担当する吉田助手は午後のカイバを食べるラヴズオンリーユーを見つめながらこう言った。

「食べても身に付かない面がありますが、牝馬にしてはしっかり食べてくれる方です。今年の冬に牧場で脚が腫れたことがあったそうで、桜花賞には間に合いませんでしたが、オークスには駒を進めることができました。少頭数だった前走と違って、今回はクラシックの王道を戦ってきたメンバーとの多頭数になりますが、スムーズなレースをしてくれたらいいなって思います」

 遅れてきたシンデレラがヴェールを脱ぐのか、オークスでの走りに注目が集まる。

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