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▲馬なり1ハロン劇場の作者、よしだみほ先生


かわいいサラブレッドたちが、実際のレースをもとに、その持ち前のキャラを大爆発させる超人気コミック『馬なり1ハロン劇場』。2019年4月19日(金)の連載1000回目をもって最終回を迎え、新たに5月10日より『馬なり1ハロン!NEO』となってnetkeibaにて連載がスタートします! 連載に先駆けて、作者よしだみほ先生のインタビューを3回に渡ってお送りいたします。今回が最終回。新たに始まるnetkeibaでの連載への意気込みを語ります。

(取材・文=不破由妃子)

馬券以外の部分で競馬を楽しもう、がベース


──『馬なり1ハロン劇場(シアター)』(以下、『馬なり』)からは、これまでたくさんの愛すべきキャラクターが生まれてきましたが、“競走馬”という役者さんたちを動かしていくなかで先生がタブー視されていることはありますか?

よしだ やはり事故があったときはすごく慎重になりますね。レース中にしろ放牧中にしろ、不幸にして死んでしまう馬もいます。そういったケースでは、なぜそのようなことになってしまったのかが完全に周知され、なおかつきちんと葬られて、ファンのなかにも“納得できた”という空気感が出てきたかなという頃にやっと出せるような感じで。そこは長年の勘で空気を読んで、時期を見計らって登場させるようにすごく気を付けています。

──そのあたり、関係者はもちろん、ファンも敏感ですからね。

よしだ そう思います。やっぱりね、現場の方はもちろん、みんな傷ついているから。あと、そういう不幸な事故があったときは、当然わたしも悲しいんですけど、その感情を出さないようにはしています。関係者にしろファンにしろ、わたしなんかよりもっともっと悲しい思いをしている人がいるんだから、そこでわたしが“悲しい、悲しい”というのは間違いだと。やはり生死が関わってくる世界なので、そこはものすごく気を遣うところですね。

──各キャラクターの生みの親である先生には酷な質問かもしれませんが、これまでで一番思い入れの強いキャラクターというと?

よしだ それはもうシンボリルドルフです。

──そこは30年という年月を経ても揺るがないんですね。

よしだ ルドフルはもはや聖域というか、殿堂入りしているような感じなんですけど、その割には扱いが「どうした!?」っていう感じになっておりまして…。読んでくださっている方はご存じかと思いますが、変な服を着てすごく気取っていて、いつも馬車に乗って現れるというね。神聖視するあまり、茶化す方向に走ってしまいました(笑)。

──好きが高じて、逆に真正面から描けなくなってしまったという(笑)。近年では、ゴールドアクターもなかなかアクの強いキャラクターとして印象に残っています。かつての栄光を引きずっている大御所俳優…ですよね(笑)。

よしだ ゴールドアクターには悪いことしちゃったなぁ。ゴールドアクターに限らず、頭を下げなきゃいけない馬たちがたくさんいます。あの子にもこの子にも「すまん!」と伝えたい…(苦笑)。

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▲ゴールドアクターには悪いことしちゃったなぁ…と先生(撮影:下野雄規)


──先生に個性を引き出されて、みんな生き生きと演じているように見えますけど(笑)。人気シリーズのブロコレ(ブロンズコレクター倶楽部)では、イスラボニータがかなりいい味を出していますし。

よしだ ああいう馬はね、わたしが意図しなくても勝手に面白いことになっていくんですよ。向こうから次々にネタを提供してくれますからね。面白いですよね、ホントに。

──シリーズ化も、その結果ということですね。

よしだ そうですね。ブロコレでいえば、かつてロイスアンドロイスやナイスネイチャなど異様に3着の多い馬がいて、ファンもそれを面白がっていたじゃないですか。だから、これはネタになるぞと思って、「ブロンズコレクター倶楽部」という名前をつけたんですけど、そのあと2着が多い馬とかも入れちゃったので、今はだいぶ曖昧になってます(笑)。

──どんどん倶楽部の“会員”が増えていますものね。

よしだ そうなんです。2着、3着ばかりの馬を見つけては、ファンの方が「いいのいますよ、先生」みたいな感じでわたしに告げ口してくださるので(笑)。ブロコレは「みんなで励まし合って勝てたらいいね」という倶楽部ですから、勝ってもネタになりますし、「やっぱり2着かよ」でも面白い。3着ならむしろ「やったー!」みたいな感じでね(笑)。勝負の世界ですから、本来なら笑ってばかりもいられないんですけど、そこをね、ちょっとみんなで笑おうよみたいなシリーズで。

──それこそが『馬なり』の世界観ですよね。漫画を通して先生が伝えたいことでもあるのでは?

よしだ そうかもしれませんね。ただ、「この漫画を通して競馬の楽しさを伝えたい!」とか、そういう使命感のようなものはまったくないんです。わたし自身、誰もが知る馬券下手ということもあって(笑)、あくまで馬券以外の部分で競馬を楽しみましょう、語りましょうというのがベースで。そういう視点で見ると、競馬って本当に勝っても負けても面白いんですよね。それは作品を通して伝わっているんじゃないかなと思いますし、そこから「馬なりっぽいよね」といわれるような『馬なり』的視点が確立されているのであれば、それはひとつの成果かなと思っています。

──その『馬なり』的視点はそのままに、『馬なり1ハロン劇場(シアター)』から『馬なり1ハロン! NEO』として再スタートを切るわけですが、変更点や新たなに挑戦したいことなどありますか?

よしだ 4ページ構成から2ページ構成になりますが、基本的には今まで通りにやっていこうと思っています。もちろん、ブロコレなどのシリーズもそのまま続けていきたいですしね。ただ、netkeibaさんではリアルタイムに読者の反応が得られると思うので、そこは何らかの形で活かしていければなと。だいぶ前になりますが、馬券が当たった外れたとか、今日競馬場でこんな面白いことがあったとか、読者の方からちょっとしたエピソードをもらって4コマ漫画を描いていた時期があったんです。それがすごく楽しかったので、もし読者の声を活かせるのであれば、またやってみたいなという気持ちはありますね。

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▲「ゆくゆくは何らかの形で読者の声を活かしていけたら…」


──実現すれば、先生とファンとのコラボ作品が生まれるわけですね。楽しみです。

よしだ はい。あと、これまではわたしだけのイメージで描いてきたので、馬によってはファンのなかにあるイメージとものすごくギャップがあるケースもあると思うんです。そのあたり、ある程度のすり合わせを本当はしたい。だから、ファンのみなさんの目に映る“競走馬”というのを教えてほしいです。

──より近いイメージを共有できれば、ファンのキャラクター(競走馬)に対する思い入れも深まりますものね。

よしだ そうなればいいなと思っています。最後に、これまでご愛読いただいていた方には引き続き、これから知っていただく方には新しい世界として、勝っても負けても楽しめる『馬なり』の世界観を楽しんでいただければと思っています。5月10日からスタートしますので、ぜひぜひご愛読ください。

(了)

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