2019年04月29日(月) 19時00分
「馬なり1ハロン！NEO」連載記念作者インタビュー よしだみほ物語(2)
▲馬なり1ハロン劇場の作者、よしだみほ先生
かわいいサラブレッドたちが、実際のレースをもとに、その持ち前のキャラを大爆発させる超人気コミック『馬なり１ハロン劇場』。2019年4月19日(金)の連載1000回目をもって最終回を迎え、新たに5月10日より『馬なり1ハロン！NEO』となってnetkeibaにて連載がスタートします！ 連載に先駆けて、作者よしだみほ先生のインタビューを3回に渡ってお送りいたします。先生はどのようにして作品を生み出しているのか、毎週訪れる苦しみ、不安とは。
(取材・文＝不破由妃子)
(取材・文＝不破由妃子)
今週こそは何も描けないんじゃないか…を30年
──「一ファンの目線から描きたい」ということで、トレセンなどの現場には取材に行かないというのがポリシーだそうですね。
よしだ ポリシーというとカッコいいんですけど、本当は怒られるのが怖かっただけです(笑)。ぶっちゃけてしまうと、当時編集長から「ブラックなものを描いてくれ」と言われていたんですよ。ちょっとこうイジるようなね。そういう方向性にあったので、現場に顔を出して関係者の方たちに怒られるのが怖かった(苦笑)。
──そうなんですね(笑)。でも、もし先生がその恐怖を克服して現場に取材に行かれていたら、いろんな意味で今の『馬なり〜』の世界観は生まれなかったかもしれませんね。
よしだ そうでしょうね。怒られるのが怖いということ以外にも、1頭の馬に対してわたしが抱くイメージと、実際にその馬をお世話している方のイメージはまったく違うと思うんです。そういったギャップがあるなかで、わたしが現場に行くべきではないと思ったところもあります。
──そのギャップを埋める必要はありませんものね。突き詰めれば、その先生の一貫した目線こそが『馬なり〜』が長きにわたって愛され続けている一番の理由のように思います。
よしだ そうですかね(笑)。確かに、競馬ファンなら誰もが手に入れられる情報しか私には入ってきませんし、その範囲でしか描かないと決めてずっとやってきたというのはあります。だから、ある意味題材となるのは読者の方たちと共通の話題なので、そこにこだわってきたのは今でもよかった点かなと思っています。
──一般の競馬ファンと共通の情報を先生なりに料理されてきたわけですが、毎週どのように情報を集めて、どのようにお話のヒントを得ているのですか？
よしだ レース結果を受けて、まずは1週間分のスポーツ新聞をさかのぼって読むんです。たとえばスプリングSをテーマに取った回でいうと、クリノガウディーはここで優先出走権を取れないと本番に出られるかどうか危ういんだなぁというところから入って、でもそういう馬はほかにもたくさんいたはずだと思って出馬表を見ていたら、抽選を突破してきた1勝馬がたくさんいたんです。でも、同じ1勝馬でもクリノガウディーについては「俺はGIで2着しているんだから、お前らとは格が違うんだ！」というプライドがあるのではないかと(笑)。
▲クリノガウディー(右)には、GIで2着したんだぞ！というプライドがあった…かも!? (C)netkeiba.com
──なるほど、それでクリノガウディーが主役になったわけですね。
よしだ そうです。そうやって、ある1頭の馬がこういう立場だという記事があると、じゃあその馬と同じ立場だった馬がいるのではないかと探したりして、そこでたとえば馬体重が大きく減っていたりすれば、「ああ、きっと悩んだんだなぁ」とか捏造していくわけです(笑)。勝った馬を主役にすることもありますし、負けた馬が中心になることもあるので、ホントにその週のスポーツ新聞のどこを拾うかは、わたし自身、そのときにならないとわからないんですよね。
──その過程では、生みの苦しみがありそうですねぇ。
よしだ それはホントに毎週毎週あります。今週こそは何も描けないんじゃないか…と思いますから。それを繰り返して30年(笑)。
──お察しします(笑)。実際、作品を完成させるまでにどのくらいの時間を費やすんですか？
よしだ 実質的には一日半ですね。何を描こうかというのは一晩で考えるんです。火曜日の夜に始めて、水曜日いっぱいで仕上げます。もうね、火曜日の夜のわたしの暗さといったら…(苦笑)。あんなふざけたものを描いているとはとても思えないような顔をしてますよ(笑)。
──先生が苦しんだぶんだけ作品が生まれて30年。本当にすごいことだと思います。
よしだ でもね、普通の漫画家さんは自分で作り上げたキャラクターをゼロから動かしているわけですよね。その点、わたしの場合は毎週、馬たちからネタを振られているので。そのなかで、わたし自身がどのネタをつまんでどう料理するかというだけですから。まったくゼロの段階からスタートするわけではないので、そこはちょっとアドバンテージがあるなという気はしています。
▲苦しんだぶん、素敵な作品がたくさん生まれてきた(提供：双葉社様)
──ちなみに、ジョッキーのコメントなどもキャラ作りのヒントになったりするんですか？
よしだ もちろんです。ただ、漠然とですけど、岡部さんが引退されたあたりから“騎手の言葉”というのが伝わりにくくなったように思います。
──最近はますますそういった傾向が強まっているのでは？
よしだ そうですね。外国人騎手も増えていますし。わたしからすると、騎手がたった一言「この馬は気性が難しくてね…」と言ってくれれば、漫画のなかのその馬の性格が決まるんです。だから、そういう一言があるかないかで全然違うんですけどね。
(次回へつづく)
