【初来日から20年】「親日家ミルコ・デムーロ」の原点(3)『世界のトップジョッキーが日本に参戦　ライバルたちへの本音』

不合格の時点で35歳、身の振り方に悩んだ日々

──通年免許試験の不合格という結果にものすごくショックを受けられたそうですが、翌年の再受験に向け、すぐに気持ちを切り替えられたのですか？

ミルコ　いや、切り替えられませんでした。「こんなに一生懸命頑張ったのに、どうしてー!!!」ってなっちゃった(苦笑)。もうこれ以上は頑張れないと思ったから、次の試験を受けるのはやめておこうと思っていました。とはいえ、これからどうしよう…と本気で悩んで。

　それまでにもいろんな国で乗っていましたが、クラシックシーズンはだいたい日本にきていたから、「いいときはまた日本に行ってる」と思われて、みんな僕のことをあまりよく思っていなかったし。

──それまで日本での騎乗を優先されてきたから余計に…。

ミルコ　そう、だからショックだった。本当にあきらめようと思いました。その時点でもう35歳だったから、香港にしろアメリカにしろ、もう拠点を決めなければという気持ちもあったし。

　でも、また日本の試験を受けるとなれば、そうはいきませんよね。日本でずっと乗りたいという気持ちは変わらなかったけど、どうしても「来年もまた落ちたら…」と考えてしまって。本当にイライラしてました。これじゃあ人生が決まらないなって。


──そんな状況から、もう一度チャレンジしようと思えたのは、何が原動力になったのですか？

ミルコ　それはやっぱり、周りの人たちが「あきらめないで」って言ってくれたから。すごくつらい思いをしたけど、あきらめないで本当によかった。でも、ダリオ(バルジュー)はあきらめてしまったね。一生懸命勉強していたし、彼は日本語もすごく上手だったのに…。

　年齢も僕より2つ上だし、子供もすでに大きくなっていたから、いろいろ難しかったのかもしれません。かわいそうでしたね。

マーフィーもモレイラもルメールも巧いけど、負けたくない

──以前のミルコ騎手のように、毎年短期免許で続々と外国人ジョッキーが乗りにきて多くの勝利を挙げていますが、立場が変わった今、彼らの活躍についてはどう受け止めていますか？

ミルコ　負けたくないのはもちろんですけど、今、日本に乗りにきている外国人ジョッキーは巧いのが当たり前。自分の国でリーディングを獲ったり、世界の大事な重賞を勝っていないと短期免許がもらえませんから。そういうジョッキーたちと一緒に乗れるのは幸せだし、負けたくないという気持ちがもっともっと強くなる。

　あとは、やっぱり自分が短期免許で乗りにきていた頃を思い出します。僕もいっぱいチャンスをもらったから、彼らにチャンスが集まってしまうのはしょうがないですね。もちろん、僕も「もっといい馬に乗りたい！」という気持ちはあるし、日本人ジョッキーも頑張っているけど。

──日本のジョッキーになるのが夢だったというミルコ騎手からすると、外国人ジョッキーが日本で乗りたいと思う気持ちはよくわかりますものね。

ミルコ　それはもちろんです。でも、日本人ジョッキーの気持ちもわかっています。「外国人ジョッキーは巧い」ってみんなが言うし、短期免許で乗りにきた外国人ジョッキーにチャンスが集まって、リーディングでも僕とルメールが1位と2位。やっぱりいい気持ちはしませんよね。

　というのも、イタリアの競馬がよかった頃は、フランスやアメリカから有名なジョッキーがたくさん乗りにきて、たくさんチャンスをもらっていました。日本人と違い、イタリア人は頑張らないから(笑)、全然勝負にならなかったけど。

　その点、日本人ジョッキーのレベルはものすごく上がっていると思います。だから、今の競馬はすごく難しくて、難しいぶんだけ面白い。今は本当に競馬が面白いです。


──年明けは、弱冠23歳のオイシン・マーフィーが大活躍しましたね。彼のポテンシャルについてはどんなふうに感じていますか？

ミルコ　若くてとってもいい人だし、やっぱり巧いですね。いっぱいチャンスをもらってたのは確かですけど、それにちゃんと応えてしましたから。また日本に乗りにくると思うけど、「どうぞ来てください！」っていう感じ(笑)。僕が何かを言える立場ではないけど、モレイラもきたら、さらに楽しいと思いますね。

──ライバルが増えるのは歓迎だと。

ミルコ　歓迎というより、それはもうしょうがないね。それに、誰が乗りに来ようと僕の気持ちは変わらないから。ジョッキーでいる限り、もっと巧くなりたいし、負けたくない。その気持ちは、何があっても変わりません。

　だから、マーフィーは巧いけど気にしない。モレイラもルメールも気にしない。ただ、さっきも言いましたが、いいジョッキーと一緒に乗るのはすごく楽しい。そこで勝てれば自信になるし、喜びも倍になりますからね。