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▲破竹4連勝中のエアウィンザー 本格化の秘密を辻野泰之調教助手に伺います


期待の良血馬・エアウィンザーが本格化を迎えています。母は2005年秋華賞を制覇したエアメサイア、全兄は重賞3勝のエアスピネル。高いポテンシャルを秘める一方、「悪く言えば不真面目(笑)」ゆえあと一歩のもどかしいレースが続いていましたが、大人になったことで勝ちきれるようになり、4連勝でチャレンジカップ(GIII)を制覇しました。どのようにして大人への階段を上っていったのでしょうか。角居勝彦厩舎の辻野泰之調教助手に伺いました。

(取材・構成:大恵陽子)


頭がいいぶんすぐ気を抜くところがあって…


――GI馬エアメサイアの仔ということでデビュー前から注目も浴びていましたが、最初の頃はどういう印象でしたか?

辻野 お父さんのキングカメハメハがすごく全面に出ていて、体も顔つきも「キンカメっぽいなぁ」って感じでした。また、お兄ちゃんのエアスピネルが笹田厩舎にいてチラチラ見てはいたのですが、「毛色も含めてお兄ちゃんとはちょっと似ていないのかな?」と思っていました。牧場での評判はエアスピネルより上じゃないかってくらいで、乗った感じもすごく能力のありそうな感じでした。ただ、悪く言えば不真面目というか(笑)。一生懸命走ろうとしないところがあって、3歳まではそういうところが響いていたのかなって気はしています。

――新馬戦ではようやく先頭に立ったところ、後ろからきた馬に差されてしまいましたね。

辻野 先頭に行こうとしないというか、闘争心が薄い馬だったので、そうやって勝ちきれなかったり、善戦はするけどそこまでっていう競馬が続いていました。気性面によるところが大きくて、負けたレースはほぼほぼ全力で走っていない感じでしたね。

――3歳春は共同通信杯で6着の後、7月まで休養に入りました。

辻野 共同通信杯でいい競馬ができなかったので、クラシックを無理に目指すよりは馬の成長に合わせていこうというのがありました。オーナーもすごく大事に使っていく方針なので、ゆっくり成長を促す意味での放牧でした。

――実際に帰ってきていかがでしたか?

辻野 7月30日に札幌で復帰戦を迎えたんですが、その時はまだ100%で走らないっていう気持ちの面は残っていました。

――しかし、その次のレースですぐに勝ち上がると、昇級初戦でもいきなりの2着。そのレースでは馬群をスルスルと縫って差し脚を見せましたね。

辻野 この時も脚は十分残っていたと思います。勝ったトリオンフはその後、重賞を勝ったくらいの馬ですし、適性の差もあったのかなとも思いますが、この時はまだ本格化一歩手前だった気がします。ただ、以前は馬群を縫うレースもあまりできていなかったので、この辺りから一歩ずつ気性面での課題は解消されていったかなとも思います。

――ずる賢さというか、そういう気性の課題にはどのように向き合ってこられたんですか?

辻野 頭がいいんですよね。シャドーロールやチークピーシーズを着けてみたりしました。なんとか気を抜かせないようにっていうのを目標に調教を進めてはきました。

――角居厩舎のコースでの調教はゴール板を過ぎてもしっかり追う印象があります。何かそういった部分でも工夫をされたんでしょうか?

辻野 併せ馬で最後にちょっと出すとか、ずっと刺激を与えるとか、色んなことをやりましたが、結局はこの馬自身のメンタルがどんどん大人になっていってくれました。こちらが意図して「こうしたい」というよりは、馬が一歩一歩進んでいってくれたように感じます。むしろ、こちらの方がもがいちゃっていたかなって気すらしますね。ここ最近は調教でも気を抜くこともないです。

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▲久々のコンビとなる武豊騎手がまたがっての調教、以前の気を抜く面はなくなりました


――そうしてメンタルが成長したことで、結果にもつながってきたんですね。

辻野 3歳の時は追い切りでも余力はあるのにフワッとするとか、抜かしに行かないとか、そういうところがありました。競馬でもそのままダイレクトに表れていましたけど、解消されてきたのが競馬にも4連勝にもつながっているなって感じます。

長所は「操縦性の高さと、仕掛けてからの反応の速さ」


――体の成長はいかがですか?

辻野 体重を増やしながら結果を出してくれています。キングカメハメハの仔なのでちょっとコロッと見せるには見せるんですが、パフォーマンスを見る限りは太いというよりはこの馬の体になってきた分の体重増なのかなって思います。

――東京コースはこれまで2回しか走っていませんが、左回りへの適性はいかがでしょうか?

辻野 共同通信杯があまりいいパフォーマンスではなかったので、もしかしたらオーナーの中であまりいいイメージは持っていなかったかもしれませんが、左回りがダメなわけではありませんし、長い直線を生かせない馬でもないです。昨年5月のむらさき賞では前がちょっと狭くなって追い出しを待ちながらも、最後にピュッと脚を伸ばして勝ちましたしね。

――そのレースから4連勝で年末にはチャレンジカップで重賞初制覇となりました。おめでとうございます。

辻野 クラスが上がってメンバーも強くなってきていますが、エアウィンザー自身もどんどんパフォーマンスが上がっています。元々持って生まれたポテンシャルをようやく出せるようになってきたんだろうなって感じています。このまま成長していってくれれば、GIIやGIっていうもう1つ、2つ上のステージで戦える馬になってくると思います。お母さんも強い馬だったので、期待も高いですし、ようやくってところですね。

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▲昨年末のチャレンジCは3馬身差の快勝(c)netkeiba.com


――辻野助手が感じるエアウィンザーの一番の強みって何ですか?

辻野 操縦性の高さと、仕掛けてからの反応が速いので、ジョッキーも心強いんじゃないのかなって思いますね。

――だからこそ馬群を縫ったり追い出しを待つこともできるのでしょうね。さて、今後の予定を教えてください。

辻野 金鯱賞からGIの大阪杯へ向かう予定です。まずは金鯱賞がメンバーも揃うようですし、ここでいい競馬をしてGIに向かいたいなと思います。

(※文中敬称略)

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