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▲休養中の調整過程を猿橋助手が語ってくださいます


ついにダノンプレミアムが帰ってきます。圧倒的な強さで朝日杯FSを制覇し、クラシック戦線での活躍が期待されていたダノンプレミアム。残念ながら昨年、皐月賞を前に挫跖で回避し、ぶっつけとなった日本ダービーは6着。秋は天皇賞・秋やマイルCSを目標にするプランも上がったものの、競馬場に姿を現すことはありませんでした。その間、ダノンプレミアムに一体何があったのでしょうか。調教を担当する猿橋照彦調教助手が昨春からのすべてを話してくださいました。

(取材・構成:大恵陽子)


度重なる回避、もどかしい日々が続きました


――27日(水)に金鯱賞に向けて1週前追い切りが行われました。3頭併せで、直線は他厩舎の追い切りと合流する場面もありましたが、内を通って81.0-36.1-12.1。追い切りに乗られていかがでしたか?

猿橋 時計的には出ていますが、休みが長かったので動かすつもりではいました。賢い馬なのできちんと我慢がきいていましたし、僕も乗っていて直線は外に行こうか内に行こうか余裕を持って考えながら乗れました。日曜日に左回りでもう1回走らせて、当週はそんなに強い調教はしなくていいかなと思っています。余裕を持っていけたらいいなってイメージです。

――強いレースぶりでGI・朝日杯FSを含む4連勝。それだけに昨年はクラシック戦線での活躍が期待されていましたが、皐月賞を前に右前脚を挫跖し回避しました。当時の状況を教えてださい。

猿橋 挫跖するとツメの中に膿が溜まって、しばらくするとそれが出てきます。下から出てくることもあれば、上から出てくることもあります。膿がツメの中で血豆のようになって圧迫するので、それが抜けてくれば痛みってあんまりないんです。普通はそうなんです。

 ただ、ダノンプレミアムの場合は膿が抜けたのに痛みが引かなかったんです。それが皐月賞の前でした。膿が抜けてみんなですごく喜んでいたんですが、それでもかなり痛がっていたので、「普通じゃないな」ってことで様子を見ながら進めていました。ここで思いの外、時間がかかりました。でも、動き出してからは実際に日本ダービーに出走できたくらい状態としては良かったです。

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▲圧巻の強さで朝日杯FSを制したダノンプレミアム(C)netkeiba.com


――夏は放牧に出され、9月に栗東トレセンに帰厩しました。当初はGIレースも視野に入っていたようですし、調教場でもよく姿を見かけましたが、結果的にここも断念することになってしまいましたね。

猿橋 天皇賞・秋やマイルCSを視野に、と言っていた頃、ツメを見ると衝撃からツメの中で膿が結構まわって空洞になってしまっていたんです。その空洞が大きかったので、運動で負荷がかかることでツメの形が変になってしまっていました。それでも装蹄師さんや獣医さん、(中内田)先生、担当者と、みんなで調整をしながら進めて、僕もそれを意識しながら乗っていました。

 マイルCSの1週前の時点では動きがすごく良かったんです。でも、その後に削蹄をしたら、恐らくプレミアムの中で気持ち悪いタイミングだったんでしょうね、乗っていて前の週とあまりに違ったので、結局マイルCSをやめました。

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▲たった1週間で状態がころっと変化してしまったことも


――ツメの中に空洞ができると、走りづらさも生じてくるんでしょうね。

猿橋  ツメが伸びていくと、傷んだ部分が根元から先端に移行していきますが、先端に近い所で空洞になっているのと根元で空洞になっているのとでは、物理的に違ってきます。先の方になればなるほど反回(蹄でクルっと地面を蹴り上げる)する時にその部分がないので、恐らく気持ち悪さとかがあるんだと思います。挫跖自体はトレセンの中でないわけじゃないですし、膿が抜ければそんなに問題になることって少ないんです。その時は痛いんですけど、抜ければ普通に歩けます。

 ただ、ダノンプレミアムの場合は程度が思ったよりもひどかったのと、ツメが伸びてきた時に中で大きく膿が回っていたので、イメージしていたよりも結果的に悪かったということです。馬も賢いので気にして動きに見せたりしていたのかな、とも思います。あまりないケースだとは思いますが、グズグズするよりもきちんとツメが伸びて綺麗に整うのを待とう、と放牧に出ました。

長いブランクの間で、馬自身の成長ぶりは?


――レースとしては約9カ月半のブランクとなりますが、その間、どのように成長したと感じますか?

猿橋 体に関しては、若いうちは柔らかい馬でもあるので手前をコロコロ替えていたんですけど、今はビシッと決めた手前で走っていますし、フラフラすることはなくなっています。成長も含めてなんですけど、ツメも日にち薬って言ったら何ですが、伸びてきてかなり綺麗になっているので、変に馬が意識しなければもう気にすることもないかなと思います。実際、追い切りも時計を出せていますし、乗っていても変な感じはしないです。精神的にも馬房では落ち着いています。

――ダノンプレミアムは厩舎初GIをとった馬ですし、これまでのパフォーマンスからも金鯱賞やその先も期待されているのではないですか?

猿橋 僕たちもファンのみなさんとあまり変わらないと思います。どういう競馬をしてくれるのか楽しみですし、走る馬なのでカッコ悪いレースはできないですしね。ホント、がんばってほしいなって思います。これだけ長い間休んで、相手も強いですが、頑張ってほしいですね。

――期待されている馬なだけに、レースに使えない間は悔しさやもどかしさもあったのではないかと想像します。

猿橋 そうですね、はい。厩舎には他にもいい馬がいっぱいいますし、厩舎としても先生もすべての馬が大切です。ただ僕個人としては、ダノンプレミアムのような馬に乗れることもあまりないでしょうし、それだけの馬でこういうアクシデントがあったので思い入れは強いですね。なんとか復活してくれればいいなと思います。

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▲「僕たちもファンのみなさんと同じ気持ち、なんとか復活してくれれば」


――金鯱賞の後のプランは決まっていますか?

猿橋 結構、レース間隔が開いて使うことになるので、反動など想像していてもどのくらいのものか分からないので、レース後に様子を見ながら今後のことは決めていくことになると思います。

――まずは無事に、この春ダノンプレミアムの走りを見られることを楽しみにしています。

猿橋 はい、応援よろしくお願いします。

(※文中敬称略)

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