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▲インティと和田将人調教助手 (撮影:大恵陽子)


6連勝で東海Sを制覇したインティ。デビューは3歳4月と遅く、その後も間隔を空けながら使われてきたが、レースを走る度に5馬身や10馬身と2着以下に大きく差をつけ、強烈な印象を与えた。前走・東海Sでもいきなりの重賞挑戦ながら結果を残したように、1戦毎に成長してきたインティの軌跡を管理する野中賢二調教師とデビューから担当する和田将人調教助手の話から辿る。

(取材・文:大恵陽子)


何とか競走馬になってほしい…


 母キティは野中厩舎でダート4勝。準オープン2着の実績もある厩舎ゆかりの血統だった。しかし、一時はデビューが危ぶまれることもあったという。

「インティが生まれる寸前にキティが顎を骨折して、あまり食べられなくなって母乳が出ないこともありました。だから、インティは体が弱かったんです。レースで走るかどうかより『何とか競走馬に』っていう思いでした」(野中師)

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▲母キティも手掛けた野中賢二調教師 (撮影:大恵陽子)


 高い能力を秘めていた母の仔を無事に競走馬としてデビューさせようと関係者はたくさんの愛情と手をかけ、トレセンに入厩することができた。同い年の馬たちと比べるとたしかに成長はゆっくりだったが、デビュー前からずっと担当する和田助手はこう振り返る。

「調教はやれば動くような感じでした。それで、態勢が整ったのでデビューできたんだと思います」(和田助手)

 2017年4月、阪神ダート1800m未勝利戦で既走馬相手にデビューを迎えた。スタートは1歩目こそゆっくり出たが、スピードに乗るとスーッと逃げ馬の後ろ、3番手インにつけた。

 しかし、勝負所から置かれはじめ、9着でゴール。これがインティにとって唯一の敗戦となっているが、実は「両トモを落鉄していたんです。それで2戦目まで間隔が空きました」(和田助手)という。

 2カ月後に阪神で迎えた2戦目はスタートからハナを奪い、そのまま先頭を譲らずゴール。2着には7馬身もの差をつけていた。

「レースに行くとシュッと行くんですが、この頃くらいまでは調教ではゆったり走る馬でした」(和田助手)

4馬身差、4馬身差、10馬身差、5馬身差


 ふたたび2カ月半の間隔を取られた3戦目、2017年8月小倉での昇級初戦は+6kgで、「脚が長いタイプですし、最初の頃はまだ線が細い印象でしたが、この頃になると筋肉がだいぶついてきたような感じがしました」(和田助手)と成長を見せた。

 ここでもしっかり勝ち、和田助手の中でもインティへの期待が高まり始めた。

 ところがこの後、捻挫。11カ月もの休養を挟むことになった。怪我の後はどうしても慎重になってしまうもので、和田助手も「万が一、レースまでに何かあってもいけないですから…」とレースに向けての調整にはいつも以上に慎重になったという。

 長期休養明けとなった2018年7月、中京での降級戦・500万下で体重は14kg増えていたが「仕上がっていました」という和田助手の言葉とハリのある馬体が示すように体は大きく逞しくなっていた。

 ここを4馬身差で勝つと、3カ月後の1000万下も伸びやかなフットワークで10馬身差をつけて勝利。

 ゆったりとしたローテーションでレースに使われてきたインティにとって最も間隔が詰まったのは中3週で迎えた6戦目、2018年11月の京都・観月橋S(1600万下)。

 詰めて使えるということは、体質がしっかりしてきた証拠だろう。それは調教メニューにも表れた。

「この頃からCウッドコースでの追い切りを取り入れ始めました。それまでは普段の調教でCWコースは使っていましたが、負荷を抑えるために追い切りなど速い時計を出す時はずっと坂路でやっていたんです」(和田助手)

 レースではハナを主張する馬を行かせて2番手からレースを進めると、4コーナーでは先頭に立ち、5馬身差で勝った。

最も印象に残るレースとなった東海S


 そして迎えた前走・東海S。調教でさらに進化を見せた。

「これまでもやれば時計を出せたんでしょうけど、成長などの面でまだ早いんじゃないかなって思っていました。でも、東海Sの追い切りは坂路で51.9秒でしたからね」(和田助手)

 一方、野中師は左回りを懸念していた。

「体のバランスだと思うんですが、(最後の直線で使う)右手前がまだ得意じゃないんです」

 しかし逃げ切り勝ちを収め、結果的に東海Sは野中師にとってインティの最も印象に残るレースになった。

「1分50秒を切る時計も優秀ですし、自分でペースを作りながらも上がり3Fを2番目に速い35.9秒でまとめられたというのも強い内容でした。向正面を左手前のままで走っていたなど細かい課題はまだありますが、それでもあのパフォーマンス。粗さもなくなってきて、良くなる余地もあるので楽しみです」

 和田助手は「単勝1.5倍に支持していただいていましたし、強い馬もいた中で勝つことができてホッとしました」と頬を緩ませた。

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▲▼野中師にとってインティの最も印象に残るレースとなった東海S (C)netkeiba.com


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 重賞ウィナーとなって迎える初GI・フェブラリーS。

「これまではコーナー4つのレースでしたが、東京1600mはワンターン。これまでのようにペースが緩みながらではないので、そこは少し心配ですが、前走後はこれまでで一番ダメージが少なく、立ち上げることができています。前走から状態をキープかそれ以上で出走できればと思います」(野中師)

 距離、コース、メンバー。これまでとは全く違った条件でインティはどんな走りを見せてくれるだろうか。

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▲フェブラリーSの1週前追い切りを終えたインティ (撮影:大恵陽子)

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