今週のface

▲愛馬コパノキッキングでフェブラリーSに挑むDr.コパ氏


今回の「今週のFace」はフェブラリーS特集。藤田菜七子騎手の起用で大注目のコパノキッキング。Dr.コパオーナーのインタビューを公開します。「今回の挑戦は突飛な考えではなくて、キッキングにとって一番合う騎手を考えた時、菜七子だった」と語るDr.コパ氏。そこには、キッキングが生まれたアメリカでの、仔馬時代の生活が大きく影響していました。そして、キッキング×菜七子騎手の未知なるコンビは、「ハマる可能性がある」とDr.コパ氏。インティやオメガパフュームなど、強力ライバル陣営の心理も見据えての展開イメージとは。さらに、米遠征という大きな夢も語ってくださいました。

(取材・文=赤見千尋)


マーフィー騎手の「(マイルは)長い」発言の受止め方


――まずはコパノキッキングで根岸S制覇、おめでとうございます!

コパ ありがとうございます。着差以上に強いレースができましたね。僕はケイアイの亀田和弘オーナーと仲が良くて、レースの2、3日前に一緒にご飯を食べたんですよ。ケイアイノーテックは初ダートで、キッキングは1400m勝ったことがないから、「不安があるってこんなに気持ちが楽なんだね」って盛り上がって。レース前はそんな感じだったんですけど、勝ってくれてとても嬉しかったです。

――不安視されていた距離も、問題なかったですね。

コパ 本当にマーフィー騎手が上手に乗ってくれました。スッと出て、ポジションを取るまでゆっくり下がって行って、結局ポジションを取れたところでそこから順番に上がって行った。スタートしてからポジションを取るまでに200〜300mあるんですよ。1400mの競馬を1100mにしてくれたなと。あとハッキリしたのは、芝はダメだということです。結局出遅れたレースを見ると、阪神の1400mと、勝ったけれどカペラS。どちらも芝スタートだから。

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▲O.マーフィー騎手の好騎乗が光った根岸S (撮影:下野雄規)


――ということは…フェブラリーSは芝スタートですけれども。

コパ だから、上手いこと出遅れてくれるだろう、という風に考えるんですよ。

――上手く出遅れる?

コパ そうそう、出遅れるというより、走りが合わないわけだから、自然と置かれる形になる。だいぶ昔の話なんですけど、キョウエイグリーンていう1200mの強い馬がいたんです。僕が大学の頃真剣に競馬をやっている時期で、よく覚えているんですけど。

 安田記念に出ることになって、競馬記者はこぞって距離が長いと。人気ももちろんなくて。東信二騎手が乗ったんですけど、ゲートをそっと出て、最初の2ハロンはタランタランやっていて、残り1200mくらいからスーッと上がって行って勝っちゃった。今回もこれですよね。いかに残り1200mのレースにするかだと思います。

――なるほど。しかし意地悪なことを言いますが、マーフィー騎手が勝利インタビューで「(マイルは)長い」と仰っていました。

コパ 言ってましたね(笑)。でもあの言葉は、菜七子にとってはラッキーじゃないですか。さっきも言ったように、レース前に不安があるというのは、気持ちを楽にしてくれますから。しかしね、あの馬の体系を見たでしょう? 体は薄いし脚は長いし、あれで短距離馬って珍しいですよね。

――確かにそう感じました。アメリカ産駒ということで、日本のダート馬とは違うのかなと。

コパ 普通は距離持つ体型ですよ。お父さんも1800mのGIを勝っているし。アメリカのセールで買ったんですけど、僕は日本にいて明(村山調教師)が行っていて。「10万ドル(約1000万円)までしか出せないよ」って言っていたんです。1番時計だったし、他の馬たちは20万ドルから50万ドルくらいで落札されていたから、明は「多分買えないですよ」って。

 でも電話が来て、「10万ドルで落ちました!」って。俺たちツイているね! って喜んでいたら、次の日また電話が来て「脚が曲がってました…」って(苦笑)。少し脚が内向しているんですよ。

――それでもここまで走るとは、能力の高さと、関係者の方々のケアの賜物ですね。

コパ だから明と相談して、体重を乗せないということを考えました。普通はあの体ならば500キロは超えますよ。でも脚元のことがあるから、そこは気を使ってもらっています。

菜七子騎手に、GIで勝算のある馬に乗せてあげたい


――デビューからしばらくは逃げて結果を出していましたが、途中からレースの幅が広がって、追い込みで力を出せるようになりました。

コパ あれは偶然ですよね(笑)。ケガの功名で追い込み馬になった。10月の京都の1600万のレースだったんですけど、スタート直後に挟まれて後ろに下がってしまって。「ああ、もうダメだ〜」と思いながら見ていたら、女房が「来てる来てる来てる!」って。差し切った時には「勝ったー!!!」って大喜びしました。まさかあんなレースができるとは思わなかったです。

――いつ頃からフェブラリーSを意識していたんですか?

コパ 最初から思っていましたけど、明に伝えたのは札幌で500万、1000万と連勝した時です。「フェブラリーに行かないか?」って言ったら、明は絶句したあと「1000mを勝ったばかりですよ」って。「お前も常識的なこと言うんだな」って笑いながら話していました。

――どの馬に対してもですが、よくこんなに面白いことを思いつきますね。

コパ 一番は自分が楽しんでいるからですかね。僕は高校の時から競馬を見ていて、オーナーならではの楽しみ方というのもファンとして見て来て、オーナーが楽しい競馬をすればファンも楽しいのではないかと思っているんです。『あいつ、こんなことするの?!』っていう。

 だからオジュウチョウサンの平地挑戦も盛り上がりましたよね。今回もそれと同じですよ。それに、彼女は下手じゃないじゃない。GIで勝算のある馬に乗せてあげたいという気持ちが強かったんです。

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▲Dr.コパ氏の思いを受けて大舞台に立つ菜七子騎手 (撮影:下野雄規)


――いよいよ藤田菜七子騎手のGI初騎乗ということで、本当に盛り上がっていますよ。

コパ 何でこの時期なんですか? っていう質問があるかもしれないけれど、5月1日に元号が変わるでしょう。そうすると今平成の一番最後、ここはやりたいことを全部やっとかないといけない時期なんです。

 僕は風水をやっていますから、この1月から自分がどんな運気が動いているかわかっている。4月の30日までに菜七子をGIに乗せてあげたいという夢を叶えるとしたら、フェブラリーSしかないんですよ。僕は強い芝馬持っていないから(笑)。

――カペラSでも菜七子騎手にオファーしていたと伺ったんですが。

コパ でも先約があって実現しなかったんです。それなら(柴田)大知くんでとお願いして。彼は真面目に頑張っていますから。それに、キッキングって優しい乗り方をした方が走る馬なんですよ。だから大知くんにも「優しく乗ってくれ」と。

――優しい乗り方ですか。

コパ そうそう、デビュー戦の時の川須くんにも「柔らかくほわんと乗ってくれ、馬が行きたい時に行っていいからさ」と伝えていました。キッキングは去勢しているでしょう? 以前調教ができない時期があって、そういう決断をしたわけなんですけど。

 実はアメリカでずっと世話をしていた人が女性だったんですよ。馬っていうのはそういうことちゃんとわかっていて、優しい、柔らかく接してくれるというのに慣れていたんだと思うんです。

 それが日本に来て、初めての場所で言葉もわけわからなかっただろうし、男ばっかりで、その辺りの戸惑いで調教ができなかったのではないかと。もし女性がたくさんいる育成で女性が担当していたら、また違う形になったかもしれない。馬がどう育ってきたかというところも見ないといけないなと思いました。

――女性の競馬界進出に大きな一石を投じるエピソードですね。

コパ アメリカってたくさんの女性が競馬に携わっているし、特に厩務員は多いですからね。日本は少ないけれど、そういうところが彼にはあるのではないかと気づいたんです。それで「柔らかく乗ってくれ」というのが基本になった。その延長線上で考えると、日本の騎手で一番合っているのは藤田菜七子なのではないかと。今回のフェブラリーS挑戦は突飛な考えではなくて、キッキングにとって一番合う騎手を考えた時、菜七子だったという話です。

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▲米遠征という大きな夢も語ってくださったDr.コパ氏



菜七子騎手のほか、地方の森泰斗騎手のサポートも


――カペラSでは菜七子騎手に先約があったということですが、根岸Sでオファーをしなかったのはなぜですか?

コパ それはけっこう言われたんですけどね、僕の中ではフェブラリーSで菜七子騎乗というのが大前提だったんです。カペラSは距離的にも自信があったけれど、そこを勝ったことでフェブラリーが具体的に見えて来た。だから根岸Sは必勝だったんです。

 もし2着でもフェブラリーには行こうと思っていましたけど、僕にとって一番最悪のシナリオは、菜七子を乗せて負けてしまうことだった。そうなったら次乗せられるかわからないですから。

――1年で9戦7勝。改めて振り返るとすごい成績ですね。

コパ すごい成績だしすごいローテーションでしょ。もしキッキングがクラブ法人の馬ならばこんな使い方はできないし、このタイミングで菜七子でとはならないと思います。ここが個人オーナーとクラブの違いなんですよ。

 僕らが競馬を始めた頃はクラブ法人はなかったし、オーナーの顔がみんな見えた。ファンにもオーナーの好き嫌いがあって、オーナーの使い方が好き、嫌いっていうところまであったんです。でも今は○○クラブの使い方が好きだなんていう表現はないでしょう。あのオーナーだからこんな使い方して、あのコンビであのレース勝っちゃったんだよなって、あの騎手降ろしちゃうわけ? オーナーわがままだなっていう。

 それも含めて競馬が楽しかった。今はそれをやれる人はあんまりいないから。牧場とも騎手とも仲いいからできることだし、僕が若い頃に味わった競馬のもう一つの面白さを体現したいという気持ちがあって。一番楽しいのは自分、それでファンも楽しんでくれたら嬉しいですね。

――今回は菜七子騎手ですが、以前は船橋の森泰斗騎手に、ラブミーチャン、コパノリッキーという名馬を乗せていましたね。

コパ 一流の馬の背中を騎手は覚えているっていうし、森泰斗を育ててあげたいという気持ちでした。ただね、リッキーは当初帝王賞に乗せるつもりだったけど、森くんが落馬して怪我をしてしまって、リッキーも脚元がモヤモヤしてしまって。その後南部杯でGI/JpnIを10個勝ってホッコータルマエに並んで、残り走れるGIが3つとなった。

 大方の予想では、JBCクラシックはスキップして、チャンピオンズカップと東京大賞典に使うのでは? と思われていたみたいなんだけど、僕はあのままのリッキーでは両方とも勝てないと思ったんです。もともと稀代の逃げ馬で、逃げたら負けない馬だと思っていたけれど、あの頃スピードが不足してきていた。だからもう一度逃げ馬にしたいと思ったんです。

 そのためには、出だしからガシガシ行って、先頭に立って頑張り切るという競馬をさせたい、だからJBCスプリントへと思った。でも牧場に反対され、みんなに反対され…、もう種牡馬としてシンジケートも組んであったし、馬が壊れるって言われてね。

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▲JBCスプリントは惜しくもニシケンモノノフの2着に (撮影:高橋正和)


――あの時の選択にも驚どろかされました。

コパ スプリントで負けても、もう一度逃げ馬にすればどちらかで勝てると。なぜあのタイミングで森泰斗かと言えば、以前乗せると約束していたから。結果出遅れて2着だったけれど、僕は彼だから2着に来れたと思っているんです。JRAのジョッキーだったらあそこまで追えないんじゃないかと。もう最初から追いっぱなしで、それでもあわやというところまで来てくれたでしょう。素晴らしかったですよ。

 それなのに森くんが東京競馬場まで謝りに来てくれてね。「何で謝るの? 俺が謝らなければいけない」って答えたんです。だって森が乗ったから負けたと言われているから、ごめんなって。「でも見てろよ、どっちかのレース勝つぞ」って言ってて、最後の東京大賞典を勝ったんですよ。

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▲その後思い描いた通りに東京大賞典を制覇、同日に引退式が行われた (撮影:高橋正和)


――あのタイミングでスプリントを使って、さらに東京大賞典を勝ってしまうという、よくそういう発想が出てきますよね。

コパ 好きなんですよ、馬のことが。だって自分に置き換えたら、毎日ステーキ食べたら飽きるでしょう。お茶づけだって食べたくなる。そういう考え方。どこかを取りに行こうと思ったら、その過程ではいろいろな刺激を与えた方がいいと思うんです。

 リッキーやキッキングで上手くいったことが目立っているけれど、未勝利の馬からすべての馬に対してやっているから、もちろん結果が出ない馬もいるんですよ。でもいろいろ考えてやってみることが楽しいんですよね。

菜七子×キッキング、ハマる可能性がある


――いよいよフェブラリーSが近づいて来ました。どんなレースを期待していますか?

コパ 芝のスタートは確実に遅れるんだから、外枠が欲しいですよね。菜七子には「そっと乗れ」と言うつもりです。自然と下がって行って、それが後方どのくらいの位置なのかはわからないけれど、最初の400mはじっとしていて、残り1200mになったらマーフィーのように間を縫って上がって行く、直線で中団後ろくらいから差して来るのではないか、というイメージです。

――1600mは初めてですが、前走も直線でソラを使っているくらいですし、本当にわからないですよね。

コパ そう! わからないんですよ。もし走っちゃったら、があるから。(インティの)豊さんが逃げているとして、キッキングが飛んで来る可能性も考慮しながら乗るのではないかと。デムーロの馬(オメガパフューム)だって、中団くらいかな。ルメール(ゴールドドリーム)はどこからでも乗れると思うけど、やっぱり2頭とも豊さんを意識するでしょう。でも後ろにキッキングがいるということで、競馬しづらいと思うんですよね。

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▲「後ろにキッキングがいるということで、競馬がしづらいのでは」とDr.コパ氏


――確かに昨年のフェブラリーSも、ゴールドドリームをノンコノユメが差し切る展開になりました。

コパ 後ろから飛んで来る可能性がある、というのは騎手心理にも影響があるんじゃないでしょうか。これは僕の考えだけど、根岸Sで戸崎くんが乗ったサンライズノヴァが8着だったでしょう。スタートして出遅れるのは想定内のはずなのに、慌てて上がって行ったのは、キッキングが前にいたからではないかと。

 キッキングに乗ってあの脚で勝った戸崎くんだからこそ、早めに捕まえに行かなければという意識があったのではないかと僕は思っているんです。そういう意味でも、今回菜七子が乗ることによって、ある程度技量のわかっているコンビよりも怖いんじゃないですかね。

――菜七子騎手とキッキングのコンビがどんな走りをするのか楽しみですね。

コパ 柔らかく乗れる彼女が乗った時、キッキングがどうなのか、本当に楽しみです。キッキングはスピードがあるけれど、それを保つ心肺機能が弱かった。でもレースを使うごとに成長していると思います。菜七子は初めのうちは騎座が固まらなかったし、馬の上でフラフラする場面もあったけれど、努力しましたよね。今は騎座がきちんとして、体幹がブレなくなった。このコンビ、ハマる可能性があると思うんですよね。

――まずは目の前のフェブラリーSですが、その先というのはどうお考えですか?

コパ マーフィーはドバイにって言うんですけど、僕と明は、もしフェブラリーに勝てたら、秋にはアメリカのブリーダーズカップスプリントへ菜七子でというプランがあります。馬にとっては生まれ故郷で、左回りは得意だし、菜七子は日本一の女性騎手として紹介されるわけでしょう? 夢がありますよね。

 地方だと南部杯やかしわ記念という選択肢もあるけれど、同じマイルでもコーナー4つなんですよね。JBCも今年浦和だから。もちろんフェブラリーSが終わってから、馬の様子を見て決めるわけですけど、考えていると楽しいんですよ。

 こういう夢を見させてくれるキッキングに感謝していますし、これまで乗ってくれたジョッキーたちのお陰で僕の夢を叶えることができるので、本当に感謝しています。キッキングと関係者のお陰で僕の夢が叶って行っているわけですが、それでファンのみんなが喜んでくれたら、こんなにいいことはないですね。

(文中敬称略、了)

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