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▲(左から)藤原英昭調教師、木村哲也調教師、友道康夫調教師


1月4日に「2018年度JRA賞」の調教師および騎手部門・受賞者が決定し、藤原英昭調教師(最多勝利調教師)、木村哲也調教師(最高勝率調教師・優秀技術調教師)、友道康夫調教師(最多賞金獲得調教師)の3師が受賞されました。トップを獲る人とはどういう人なのか? 共通のアンケートを通して、「競馬」でなく「経営者」としての頭脳に迫ります。

(取材=大恵陽子/藤原師・友道師、佐々木祥恵/木村師)



藤原英昭調教師 「JRA賞最多勝利調教師賞」受賞


『意志や目標をしっかり定め、厩舎全体としてブレない』

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▲2017年の2位からついに首位、年間58勝を挙げた藤原英昭調教師 (C)netkeiba.com


【1】受賞を受けて、その一番の要因は何だと思いますか?

藤原 オーナーの継続的な支えがあって、そして何よりもスタッフが朝昼夜、雨の日も風の日も努力をしてくれている結果ですね。それをずっと開業から継続できたのが一番の要因です。

【2】2018年、一番パワーを使ったことは何ですか?

藤原 開業から常に変わらず、継続して同じ考えとリズムで来ています。2018年に一番パワーを使ったのではなくて、10年以上継続することにとても大きなパワーがいります。継続するパワーは1年どころのパワーではないですからね。それが実になったのが去年の結果だと思います。

【3】厩舎経営で一番大事にされていることは何ですか?

藤原 一番は、常に馬も人もケガなく安全であるということです。それがベースにあれば、やり方や意識などで何とでもなると思います。故障してしまったら、どれだけ理想的なことを言っても実行できないので、馬と人が常に気持ちよく安全であることを大切にしています。

【4】ズバリ! 厩舎の自慢はなんですか?

藤原 初志貫徹で、意識が途切れないことです。我慢強さであったり、意志や目標をしっかり定めて厩舎全体としてブレないというところでしょうか。

【5】例えば、もう少し頑張ってほしいなというスタッフがいたら、どんな言動をとりますか?

藤原 あまり言葉はかけないですね。経営者としては楽なやり方かもしれませんが、オーナーや馬がいるという責任感で常にここで動かなければいけない厩舎っていうので作ってきました。言葉はかけないですが、どういう馬を任せるかが私からの信頼度であったり、やる気を起こさせる手段の1つということはあります。

【6】愛読書は何ですか?

藤原 稲盛和夫さんの実学書です。経歴を含めて興味深いです。

【7】休みの日、ほっと一息つける趣味はありますか?

藤原 休日は牧場や北海道に行っていることがほとんどです。ただ、家にはあまり競馬を持ち込まないようにしています。競馬の写真も置いていません。そうして意識的にオンとオフの切り替えをしています。

【8】世間で今一番気になっているニュースはなんですか?

藤原 稀勢の里の引退。トップを張るっていうのは難しいこと。「厩舎で大事にしていること」でも話しましたが、人間が健康体でないといけません。稀勢の里も怪我やいろんなことでバランスが崩れたのでしょう。

 どれだけ気持ちや責任感があっても、体が資本だということは馬にも人にも通じます。いかに予防するか、怪我をしない体を人馬ともにつくっていくか。そうすれば、意欲や意志や責任があればもっと長く横綱はできます。継続するためには何が必要かっていうのを勉強させられたニュースですね。

【9】尊敬している有名人、著名人は誰ですか?

藤原 落合博満さん

【10】座右の銘は何ですか?

藤原 得意平然、失意泰然

【藤原英昭】
1965年6月29日生まれ、滋賀県出身。星川薫厩舎の調教助手を経て、2001年に栗東で開業(開業19年目)。2007年、2008年、2013年にJRA賞最高勝率調教師賞受賞。最多勝利調教師賞は2018年が初受賞。2008年にエイジアンウインズでヴィクトリアマイルを勝利し、GI初制覇。2010年、エイシンフラッシュで日本ダービー制覇。


木村哲也調教師 「JRA賞最高勝率調教師賞・優秀技術調教師賞」受賞


『厩舎も牧場も含め、管理馬に関わる皆の情熱』

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▲勝率0.215をマーク、開業8年目でJRA賞を受賞した木村哲也調教師 (撮影:佐々木祥恵)


【1】受賞を受けて、その一番の要因は何だと思いますか?

木村 私の厩舎の管理馬に関わってくれる方が本当に一生懸命やってくださった成果だと思っています。これは厩舎だけではなく、牧場も含めてトータル的にですね。牧場にいる期間も長く、牧場にいる期間は皆さん本当に一生懸命やってくださるので、良い状態で馬が厩舎に入ってきてくれます。厩舎スタッフの管理能力も上がってきていますが、これは失敗を生かして進化している成果だと思います。

【2】2018年、一番パワーを使ったことは何ですか?

木村 これは昨年だけではないですけど、スタッフとちゃんと話をするということです。良いことだけではなく、ネガティブな情報も拾い上げるように、コミュニケーションを取っています。

【3】厩舎経営で一番大事にされていることは何ですか?

木村 勝つことだと思います。結果、勝つためにどうしたら良いかということを考えています。

【4】ズバリ! 厩舎の自慢はなんですか?

木村 スタッフが素晴らしいことです。情熱を持って取り組んでくれています。それがGI勝利にも繋がったのだと思います。あとは応援してくださる周りの人がたくさんいて、皆素晴らしいということです。厩舎だけで成し遂げられることではないですから。牧場にいる期間も長いですし、騎手も一生懸命頑張ってくれています。

 マイルチャンピオンシップ(GI)に優勝した時は、ウィリアム・ビュイック騎手が騎乗しましたが、それもいろいろな方の尽力があって私の厩舎(木村師が身元引受調教師)に来てくれたり、ステルヴィオにも騎乗することになりました。

【5】例えば、もう少し頑張ってほしいなというスタッフがいたら、どんな言動をとりますか?

木村 生きて行くことはそんなに簡単ではないということを伝えます。皆、そう感じながら頑張っていますよね? でもそこから逃げると、いつまでたっても変わらないと思うんです。若かった時は、自分がそうだったので…。だから「俺も若い時はそうだった」と自分の体験を元にどうしたら良いかを話します。

【6】愛読書は何ですか?

木村 若い頃、「沈まぬ太陽」など山崎豊子さんの本は軒並み読みました。あと瀬島隆三さん(陸軍軍人で戦後実業家となる。山崎豊子さんの「不毛地帯」や「沈まぬ太陽」の登場人物のモデルとも言われており、「二つの祖国」では実名で記述されている)関連の本を読みますね。

【7】休みの日、ほっと一息つける趣味はありますか?

木村 鹿島アントラーズのことで頭がいっぱいです(笑)。休日というより主に夜ですけど、鹿島スタジアムで観戦もします。

【8】世間で今一番気になっているニュースはなんですか?

木村 労働人口の減少です。(競馬の世界でも問題になってますね?)そうです。調教師会でもその問題に取り組んでいて、それについての会議も行われています。

【9】尊敬している有名人、著名人は誰ですか?

木村 尊敬している人はたくさんいますけど…。満員電車に毎日揺られて一生懸命家族のために働いていらっしゃる世の中のお父さんたちですね。通勤するお父さんに限らず、皆本当に大変だと思うんです。有名人ではない、そういう方たちを尊敬しています。

【10】座右の銘は何ですか?

木村 「継続は力なり」です。

【木村哲也】
1972年11月16日生まれ、神奈川県出身。佐藤征助厩舎、高橋裕厩舎、勢司和浩厩舎、中川公成厩舎に従事し、2011年に美浦で開業(開業9年目)。2015年アルビアーノでフラワーCを勝利し、重賞初制覇。2018年、ステルヴィオのマイルチャンピオンシップでGI初勝利。


友道康夫調教師 「JRA賞最多賞金獲得調教師賞」受賞


『馬は怪我なく1走でも多く、1つでも着順が上がれるように』

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▲総賞金17億0730万7100円を獲得した友道康夫調教師 (撮影:大恵陽子)


【1】受賞を受けて、その一番の要因は何だと思いますか?

友道 スタッフみんながしっかりやってくれて、馬が走ってくれたことじゃないですかね。大レースに強いと言われますが、それはたまたまだと思います。どのレースに向けても心構えは同じにしています。ただ、やっぱりGIや大きなレースは前から計画を立ててやっていくので、それがいい方向に出ているのかもしれません。

【2】2018年、一番パワーを使ったことは何ですか?

友道 前年(2017年)から「ワグネリアンで来年はダービー!」と言っていました。2歳は順調にいったんですが、3歳になって弥生賞、皐月賞と結果が出なかったので、そこからいかにダービーで巻き返すかっていうことを私もみんなも考えてやっていたと思います。そこが一番パワーを使いましたね。

【3】厩舎経営で一番大事にされていることは何ですか?

友道 いつもみんなに言っているんですが、「人馬とも安全で事故のないように」ということを心がけています。やっぱり人も馬もケガが一番怖いです。その上で、馬は怪我なく1走でも多く出走できて、できれば1つでも着順が上がれるようにって考えています。

【4】ズバリ! 厩舎の自慢はなんですか?

友道 スタッフですね。みんな、すごくやってくれています。

【5】例えば、もう少し頑張ってほしいなというスタッフがいたら、どんな言動をとりますか?

友道 具体的なことがあれば、具体的な内容で指示をします。総論としては、口で言うよりもスタッフのモチベーションを上げることです。私が調教師になった時、橋口(弘次郎)先生(引退)から「調教師の仕事っていうのは、スタッフが検疫厩舎で初めて担当馬を見た時に『すごくいい馬だなぁ』って思えるような馬を集めてくること」と言われました。牧場から入厩してくる時、検疫厩舎で初めて自分の担当馬を見るのですが、そこからスタッフのモチベーションも変わってきます。私も厩務員や調教助手をしていたので、その気持ちもすごく分かります。

 いまうちの厩舎は結果を残せているので、その結果次の年、また次の年っていい馬を預けていただけて、好循環を生んでいます。ただ、歯車が1つでも合わないと狂ってしまうので、それはみんなにも言っています。気を抜かずに頑張れば、2〜3年後に入厩する馬も変わるでしょうし、厩舎ってその繰り返しだと思います。

【6】愛読書は何ですか?

友道 競馬ブックとギャロップと優駿です。

【7】休みの日、ほっと一息つける趣味はありますか?

友道 休みを利用して牧場に行ったりするので、実際に休みはありません。でも、牧場で当歳馬や1歳馬を見ていると息抜きになるんですよ。同じ競走馬でも現役の馬とは全然違う視点で見ているので、また気持ちが違います。牧場にいる馬たちには大きな可能性があって、いろんな期待を抱くので、私自身もそこでモチベーションが上がります。

【8】世間で今一番気になっているニュースはなんですか?

友道 消費税が10%に上がることです。競走馬を買うにしても大きいですし、実は賞金にも消費税がかかるんです(苦笑)。

【9】尊敬している有名人、著名人は誰ですか?

友道 競馬に関係するところでいろんな方を尊敬していますし、身近なところでは著名人ではないですが、両親を尊敬しています。ウインズのない街で育ち、競馬とは縁のない家庭でしたが、大学の獣医学部から競馬の世界に入ることを反対することなく受け入れてくれました。私も大学に入るまでは競馬の世界に入るとは思っていなかったんですけどね。当時はまだギャンブル色も強かったですから、感謝しています。

【10】座右の銘は何ですか?

友道 人とのつながりを大切にしたいので、「一期一会」です。

【友道康夫】
1963年8月11日生まれ、兵庫県出身。浅見国一厩舎、松田国英厩舎での厩務員、調教助手を経て、2002年に栗東で開業(開業18年目)。2008年、アドマイヤジュピタで天皇賞(春)を勝利しGI初制覇。2016年にマカヒキで、2018年にワグネリアンで、日本ダービーを2度優勝。2017年にはヴィブロスでドバイターフを制し、海外GI初勝利。

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