【エリザベス女王杯】マジックマンが魅せた『逆の発想』とは
2018年11月15日(木) 18:00

【エリザベス女王杯】マジックマンが魅せた『逆の発想』とは

哲三の眼!

▲これが初コンビのモレイラ騎手とリスグラシュー。人馬共に初のGIタイトルを手に入れた(C)netkeiba.com

今年のエリザベス女王杯は3番人気リスグラシューが勝利! GIでは4度の2着で涙を呑んできた実力馬が、8度目の挑戦にしてついに悲願のGIタイトルを手にしました。鞍上のモレイラ騎手もこれが初のJRA GI制覇となりました。“雷神”の異名を持つモレイラ騎手。すでに日本でもおなじみの「モレイラマジック」とは一体何なのか? 哲三氏ならではの視点で分析します。(構成:赤見千尋)

向正面での乗り方を見て「勝ったな」と

 エリザベス女王杯ではリスグラシューが悲願の初GI制覇を果たしました。これまであと一歩のところで勝てずにいたリスグラシューをテン乗りであっさりと勝たせてしまうとは。改めてモレイラの凄さが際立ったレースでしたね。

■11月11日 エリザベス女王杯(12番:リスグラシュー)

 リスグラシューのこれまでのイメージだと、2200mという距離が少し不安視されていました。こういう場合、スタートをゆっくり出して、後方でジッとしていて直線で勝負するという競馬を選びがちなんですが、モレイラはスタートをしっかり出して、スピードに乗せて中団の位置から運びました。

 一見すると、距離不安のある馬に対してセオリーとは逆の乗り方をしているように見えますが、この『逆の発想』こそ、他の人では勝てなかった馬が勝てた理由があると思います。これはあくまで僕の考え方ですが、そもそも距離不安のある馬に対して、スタートをゆっくり出して直線勝負することが有効なのかなと。僕の中でのイメージは、そうすると距離損、例えば2200mのレースだったら2230mくらいになってしまうように感じます。『道中で脚を溜める』ためにスタートをゆっくり出して構えるわけですが、それがロスに繋がってしまう可能性がある。脚を溜めるためにスピードを殺すのではなく、もっと他の部分でカバーできることがあると思います。

 今回のモレイラの乗り方は、スタートをしっかり出してスピードに乗せていた。普段からゲートで遅れる場面をあまり見ない騎手ですが、こういう大舞台でもしっかりとスタートを出したことが、ファインプレーに繋がる第一歩ではないでしょうか。

 向正面での乗り方を見て、距離云々関係なく「勝ったな」と思いました。モレイラのベースとなる乗り方がしっかりと出来ていて、馬が走りやすそうだったからです。向正面の1シーンを静止画で見てみるとわかりやすいのですが、ハミ、拳、ヒジ、ヒザがすべて直線上にあるんです。手綱を短く持っていると、手綱を引いた時にヒジがヒザに被ってしまう人が多いけれど、モレイラはそれがない。前にもこのコラムで触れましたが、こういう乗り方ができると短い手綱でも長手綱で乗っている効力を使うことができるんです。

 なかなか言葉だけでご説明するのは難しいのですが、この乗り方の効果は馬が走りやすいことだと思います。大雑把な表現を使うと、前に進むための筋肉を上手く使って走れているんです。逆に言うと、スタート後すぐに抑えてスピードに乗せてあげないと、バックする時の筋肉を使いながら走っているイメージ。この道中の走りやすさがモレイラマジックの要因の一つだと思いますし、走りの違いを考えたら結果が出るのも当然ですよね。

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▲「道中の走りやすさもモレイラマジックの要因の一つ」(C)netkeiba.com


 馬乗りの方法はいろいろあるし、何を目指しているのか、どういう乗り方が好みなのかでも違ってくると思います。僕にとって好みの乗り方なので余計にそう見えるのかもしれませんが、クビの使い方や筋肉の動かし方が、超絶に理に適っているなと。もちろん競馬ですから、いつもいつも完璧というわけではないですし、今回も直線でヨレてしまったことは残念でした。それでもエリザベス女王杯のレース運びは、完璧に近いものがあったのではないでしょうか。

 2着は9番人気のクロコスミアが逃げ粘りました。今回はメンバー的に単騎での逃げが見込めそうで、そうなれば展開を有利に運べるのではないかと思っていましたが、GIの舞台できっちりスタートを決めて、その通り有利な展開に持ち込んだ岩田くんもさすがの騎乗でしたね。

 1番人気モズカッチャンは、前走の札幌記念を見ると、少しズブい面が出て来たのか、ゲートをフワッと出してあげると最後方からになってしまう可能性があった。でもミルコはしっかりと出して、かなりポジションを取りに行っていました。結果3着でしたが、見ごたえのあるレースでした。

今週の注目コンビ

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▲富士ステークスを制したロジクライ。初GIの舞台ではC.デムーロ騎手が手綱を取る(撮影:下野雄規、(C)netkeiba.com)


 今週の注目のコンビはマイルチャンピオンシップのロジクライ&クリスチャン・デムーロ騎手。クリスチャンは京都外回りで馬券に絡んで来ることが多いし、ロジクライはとても能力の高い馬だと思います。今5歳の秋でどれくらいの力があるか見たいし、さらにいい結果が出ればもっといいなと注目しています。

(文中敬称略)

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