2018年11月18日(日) 18:02
アーモンドアイ参戦!先輩三冠馬ジェンティルドンナと徹底比較
【牝馬三冠からJCへ】「静のアーモンドアイと動のジェンティルドンナ」両馬をデータで徹底比較
▲ジェンティルドンナ以来の3歳牝馬でのJC制覇を狙うアーモンドアイ (撮影:下野雄規)
今から6年前の2012年、牝馬三冠を達成したジェンティルドンナは、果敢にもジャパンCへと駒を進めた。初の古牡馬相手のGIだったが、3番人気という支持を得た。結果は、長い叩き合いの末、ハナ差しのいで見事勝利。レース史上初の3歳牝馬による優勝を成し遂げた。しかも、2着に破った相手は前年の三冠馬オルフェーヴル。今年、同じ道を歩もうとしているのがアーモンドアイ。偉大な先輩に次いで、彼女も歴史の道を拓くか。須田鷹雄氏が2頭の名牝を徹底分析する。
(文:須田鷹雄)
(文:須田鷹雄)
騎手も含めて見たときのスタイルに大きな違い
ジェンティルドンナとアーモンドアイ。2頭はともに三冠制覇を成し遂げた強い牝馬同士ではあるが、冷静に見てみるとそのパーソナリティには違いがあるように思える。
まず第一に、2頭は血統的な仕組みが真逆な関係にある。ジェンティルドンナは母ドナブリーニがチェヴァリーパークSなど、6ハロンで活躍した短距離馬。それでいて2400mを楽にこなしたのは、ステイヤー的な資質にも秀でるディープインパクトとの配合だったからだろう。
▲2012年のJC、オルフェーヴルとの叩き合いの末にジェンティルドンナが勝利 (撮影:小金井邦祥)
▲2013年のJCも優勝、レース史上初の連覇を果たしたジェンティルドンナ (撮影:下野雄規)
アーモンドアイは逆に、父ロードカナロアがご存知の通りの短距離馬。母フサイチパンドラは筋金入りのステイヤーというわけではないから、オークスの時点で距離を疑うこと自体は間違いではなかったといまでも思う。仮に全弟全妹を何頭か作ったとしたら、その中には距離に限界のある馬も混ざるはずだ。しかし結果的に、アーモンドアイについては母方が距離延長時のサポートとなった。
スピードとスタミナを父母どちらに頼るのかによって適性も変わるものなのか、それとも最終的に同じところに着地するのかは、正直なところ分からないし、科学的に説明できるものでもないだろう。ただ、結果として2頭の競馬には少し違いがあるようにも見える。
馬場状態や距離、ペース、位置取りを無視した話だが、アーモンドアイはこれまでに33秒台の上がりを3回マークしており、キャリア6戦すべてで上がり最速を記録している。一方でジェンティルドンナが33秒台を出したのは3歳秋になってからで、そのうちローズSと秋華賞はペースが強く影響してのものだった。
その2レースでは上がり最速ではなく、ともに3位だったし、秋華賞終了時点で上がり最速をマークしたのは8走中3走のみ。上がりに関わるどんなファクターを考慮するにせよ、短い距離・区間を速いタイムでまとめることについては、アーモンドアイに分があるはずだ。
▲33秒6の末脚で秋華賞を優勝したアーモンドアイ (C)netkeiba.com
ただ2400mに対する安心感は、後の歴史を知っているがゆえの先入観があるせいかもしれないが、ジェンティルドンナに少し分があるように思える。
オークスは12年のほうが残り600mの時点で1.1秒ほど速い。それゆえジェンティルドンナの上がり3Fは34秒2まで(アーモンドアイは33秒2)だが、トータルの時計は12年のほうが速いし、2着馬との着差(5馬身と2馬身)もつけている。ゴール前の余裕もジェンティルドンナのほうがあるように見える。
客観的な指標などからは離れた話になるが、この2頭の競馬スタイル、特に騎手も含めて見たときのスタイルには大きな違いがあるということも指摘しておきたい。
ジェンティルドンナは岩田騎手のような「動」のタイプの騎乗に導かれ、オークス時も代打騎乗の川田騎手がかなり激しいアクションを見せた。馬もそれに呼応して良く言えば荒々しく、悪く言えば見映えはしないフォームで、しかし最後まで力強く走りきった。
それに対してアーモンドアイのルメール騎手は恐ろしいほどに「静」の騎乗を繰り返してきた。秋華賞の4角などは、なぜその位置でその落ち着き方ができるのかと思ったし、馬も秋華賞に限らず伸びてくるときは前例が無いほど淡々とストライドを伸びてくる。この2つのスタイルの差が、比較を難しくしている。
▲「ルメール騎手は恐ろしいほどに“静”の騎乗を繰り返してきた」と須田氏 (撮影:下野雄規)
そんな中、アーモンドアイとルメール騎手が唯一焦りというか泥臭さを見せたのが、オークスの直線、リリーノーブルに対してもたれていき、ルメールが左鞭に持ち替えたシーンではないかと思う(もちろんこれが考え過ぎという可能性もある)。それが東京芝2400mという条件について、筆者が満点の安心感までは認めないでいる理由でもある。
それゆえ、ジェンティルドンナがオルフェーヴルを弾いたうえで競り勝ったような、「激しい」という形容が似合うような勝ち方、消耗戦のような勝ち方は、アーモンドアイについてはまだちょっとイメージできない。
ただ逆に、アーモンドアイにとってやりやすい、例えば中盤が緩んで上がり勝負になるような形だと、涼しい顔で簡単に勝つ可能性もある。こちらのシナリオになる確率もそれなりに高いわけだし、ここまで来たら「ジャパンカップを涼しい顔で勝つ3歳牝馬」を見てみたいような気もしてくる。それが実現すると、ジェンティルドンナとはまた別な形で、ファンの記憶に強く残る勝利となることだろう。
『牡馬に対してひるむことがなかった』ジェンティルドンナとアーモンドアイ、それぞれの素顔
▲ジェンティルドンナ(左)とアーモンドアイ(右)の素顔を徹底比較 (C)netkeiba.com
今から6年前の2012年、牝馬三冠を達成したジェンティルドンナはジャパンCへと駒を進めた。オルフェーヴルとの叩き合いの末、ハナ差しのいで勝利。レース史上初の3歳牝馬による優勝を成し遂げた。今年、アーモンドアイが偉大な先輩と同じ道を歩もうとしている。そんな歴史に名を刻む名牝の素顔を、それぞれの担当者が証言(ジェンティルドンナ日迫真吾厩務員、アーモンドアイ根岸真彦調教助手)。一流馬の一流馬たる所以が見えてくる。
(取材:美浦・佐々木祥恵、栗東・大恵陽子)
(取材:美浦・佐々木祥恵、栗東・大恵陽子)
Q.競馬に行ったときのスイッチの入り方は?
▼ジェンティルドンナは「テンションが高かった」
ゲート裏でテンションが高かったですね。オークスで「発汗がすごいですね〜」って言われましたが、あれはガス抜きになっていて、本当のイレ込みじゃないです。スタミナをロスしている感じではなかったですね。「ちょっとイラつくから、引っ張っている担当のおっちゃんに八つ当たりしよう」みたいな(笑)。ドバイに行った時、日本と違って向こうはゲート係の人しか触れないんですが、僕が引っ張っている時と違って明らかに人を見ていました。その時は普段ほどやっていなかったです。
▼アーモンドアイは「一気に馬が変わる」
普段過ごしている上では人懐っこいですけど、馬場や競馬に行くとスイッチが入ります。パドックでジョッキーが乗った時に、一気に馬が変わりますね。テンションが上がって気合いが入ったなというのは感じます。(普段の調教で)角馬場やダクなど、ゆっくりでいいとわかっている時は動かないというか、逆にヤル気がないくらいで、ルメールさんも「全然動かない」って言っています。それが馬場に行くと急にスイッチが入ってすぐハミを取ります。(仕事をわかっているんですね?)そうですね。
▲ジェンティルドンナを担当した日迫真吾厩務員 (撮影:大恵陽子)
Q.レースを終えての様子は?
▼ジェンティルドンナは「涼しい顔をしていた」
秋華賞の後でも息の入りは良かったです。馬が競馬を分かっているのか、「ゴール板でハナだけ出ていたらいいんでしょ?」っていう感覚がありましたね。ヴィルシーナと接戦で、あの時にはもう競馬を分かっているようなところがありました。写真判定でしたが、ずっとライバルだったので、あの馬に負けたらしゃーないってところもありました。ラストランの有馬記念でもゴールの手前に赤いポールが立っていて、そこをゴールだと思って1回ふわっと体が浮いています。そこからもう一度追われて動きましたが、勘違いしていたみたいです。スローペースで、先行馬有利のコースで馬場も良かったので、涼しい顔をして帰ってきました。走る馬は競馬を分かっている馬が多いんじゃないですかね。
▼アーモンドアイは「すぐにケロッとしていた」
普段の調教では息は入りますね。心肺機能は強いです。桜花賞の時は結構楽に走ってきて、すぐにケロッとしていました。直線だけ走ったという感じでした。オークスと秋華賞の時は、目一杯走ってきて疲れている感じはありました。オークスの時は暑かったのもあったと思います。秋華賞の時は、最後の直線で全力を出し切ったという感じがしました。ツラッと走っているようで、全力だったのかもしれません。
▲▼アーモンドアイと根岸真彦調教助手 (撮影:佐々木祥恵)
Q.普段馬房にいるときの様子や人に対しての接し方は?
▼ジェンティルドンナは「気が強い姉ちゃん」
気が強い姉ちゃんって感じでした。私に対しては一番のガス抜き対象だったんじゃないですか。ゲート裏でもそうだし、手入れをしている時もそんな感じでした。牝馬は総じて多いですが、お嬢様のように扱ってあげた方がよかったので、そうしていました。わがままを言ったら「ハイハイハイ〜♪」って感じで。乗せて気分良くさせてあげないとって思っていました。エサをあげている時は、それなりに可愛く甘えてくれることもありましたけどね。
▼アーモンドアイは「のんびり落ち着いている」
傍から見るとのんびり落ち着いているような感じですけど、手入れがあまり好きではなくて体を触ると怒っています。お腹とか触られるのが嫌のようです。嫌なところを手入れしていると、目付きが変わって蹴飛ばしてきます(笑)。人に対しては、馬場に行ってテンションが上がった時以外は、大人しいです。スイッチのオン、オフができています。
Q.他馬への接し方、特に牡馬に対しては?
▼ジェンティルドンナは「ひるむことがなかった」
最後の2年くらいは調教の帰りは助手に乗ってもらって、僕が横について歩いて帰ることが多かったです。万が一、何かあってはいけませんから。牝馬らしいところがあって、攻め馬が進んできたらストレスを抱えていろんなものに反応していました。そういう面は普通の馬ですよね。取り立てて気が悪いとかはないですが、言い方はあれですけど瞬間湯沸かし器みたいなところもありました(笑)。それが競馬でもいい方に出ていたんでしょう。牡馬に対してはあまり気にすることがないというか、ひるむことがなかったですね。
▼アーモンドアイは「さほど気にしていない」
他の馬はさほど気にしていないですけどね。例えば出張で1頭で行ってもツラッとしているし、馬場に1頭で行っても大丈夫ですし、逆に馬がいてもいいですし。(牡馬がいても動じることもなく?)そういうのはあまりないですね。(そういうところは堂々としている?)そうですね。
▲引退レースの2014年の有馬記念を勝利、勝った戸崎騎手と内田騎手(ヴィルシーナ騎乗)が握手 (撮影:下野雄規)
▲有馬記念当日、引退式を行ったジェンティルドンナ (撮影:下野雄規)
Q.飼い食いは?
▼ジェンティルドンナは「最初はあまり…」
最初は良くなかったですが、チューリップ賞の前にちょっと熱発しながらも4着だったので桜花賞は自信がありました。
▼アーモンドアイは「春からバリバリと」
今年の1月とか3月くらいの冬場は、普通の女の子くらいにしか食べなかったのですけど、暖かくなってからバリバリ食べるようになりました。季節的なものなのか、それとも段々食べられるようになってきたのかはわからないのですけど。(また冬が来てみないとわからない?)そうですね。今はバリバリ食べています。
Q.「さすが三冠馬!」と思うところは?
▼ジェンティルドンナは「ポテンシャルの高さ」
「さすが!」っていうのは特にないですが、元々ポテンシャルが高かったんでしょうね。追い切り後に息が入るのがめちゃくちゃ早かったです。厩舎にきた時から心臓が良くて、普通の馬だったらまだハァハァ言っているのに、ケロッとしていました。最初から「能力高いな、この馬」と思っていました。引退後、まだ会いに行っていないんですが、いいお母さんになって、長生きしてくれたらいいですね。ただただ、それだけです。
▼アーモンドアイは「スピードの速さ」
やっぱりスピードが1番速いというか。(普段乗っていて感じる?)全然他の馬とは違います。前の捌きだったり、トモの蹴りだったり。とにかく脚が速いです。(秋華賞の直線で手前替えてからの瞬発力もすごかったですね?)そうですね。(伸びてきた瞬間は?)おっ、勝てそうかな、エンジンがかかった時には大丈夫だなと思いました。