外国馬の参戦が過去最少タイ ジャパンCの注目度を本気で回復させるなら
2018年11月18日(日) 18:01

外国馬の参戦が過去最少タイ
ジャパンCの注目度を本気で回復させるなら

教えてノモケン!

▲国際競走の華やかさが失われたジャパンC、打開策はあるのか (写真は2017年のジャパン、撮影:下野雄規)

今年のジャパンカップ(JC)は、外国馬が過去最少タイの2頭止まり。過去5年は3-4頭(3頭が3回、4頭が2回)で推移していたが、この“防衛線”も崩れた。近年の外国馬は着順掲示板入りも珍しく、馬券も売れない。今年も期待薄で、38回目を迎えるJCは、国際競走の華やかさが失われ、「国内芝2400メートル王者決定戦」と化した。「JCパッシング」の背後には何があるのか?(文:野元賢一)

締め切り日にやっと2頭が…

 第1回登録馬発表の11月11日。例年なら、外国馬の顔ぶれは前日までに発表されているが、今回は違った。日本馬の登録がメディアに公表される午後2時半に、やっと2頭の名前が出た。昨年に続きエイダン・オブライエン厩舎(アイルランド)は、カプリ(牡4、父ガリレオ)を投入。もう1頭は英国の5歳せん馬サンダリングブルー(父エクスチェンジレート)である。

 両馬の格とレーティング(RT)には、逆転現象が見える。実績上位のカプリは118で、119のサンダリングブルーより低い。カプリは昨年、アイルランドダービーと英セントレジャーの両G1優勝でRT120。今年は4月にG3を勝っただけ。凱旋門賞5着時(エネイブルと3馬身4分の1差)が118。英チャンピオンSはクラックスマンと7馬身半差で、8頭中4着だった。

 サンダリングブルーは完全な格下。G1未勝利で、前回は世界の芝2400メートルG1でも格下のカナダ国際で2着。RT119がついたのは、その前の英ヨークのインターナショナルS(G1)で8頭中3着。これがトップクラスで唯一の戦績で、3歳最強のロアリングライオンから3馬身4分の3差だった。

 カプリは芦毛で紫の入った服色に加えて、常に2番手前後でレースを運ぶため、映像で確認しやすい。仏G2フォワ賞、凱旋門賞、英チャンピオンSの映像を見たが、前でしぶとさを生かすタイプで、最後の瞬発力比べで苦戦していた。休養明けとは言え、馬場の速かったフォワ賞であっという間に後続馬にかわされた場面は、日本の馬場適性に疑問を抱かせる。ただし、クリンチャーには先着していた。

 サンダリングブルーも芦毛だが、こちらは差し馬で、インターナショナルSでは最後方から、決着がついた後に追い込んできた印象。カナダ国際は1番人気に推され、中位の内から直線で抜け出したが、英国のデザートエンカウンター(セン6)に差された。同馬は3月末のドバイ・シーマクラシック(G1)が10頭中9着で、日本馬3頭に先着された。ネット検索で簡単に映像を確認できる今日、RTに幻惑される人はいないだろう。

「奇特な」? 遠征馬の意図は…

 JCで外国馬が馬券に絡んだのは、2006年のウィジャボード(英=3着)が最後。その後は延べ47頭が出走し、09年4着コンデュイット(英)、13年5着ドゥーナデン(仏)、昨年5着のアイダホ(アイルランド=後にアワアイダホと改名)と、着順掲示板入りは3件止まり。馬券的にも11年の凱旋門賞馬デインドリーム(6着)が1番人気に支持されたのを最後に、5番人気以上はない。

ウィジャボード

▲2006年のジャパンCに出走したイギリスのウィジャボード(3着) (撮影:下野雄規)


ディープインパクト

▲同年のレースを勝ったのは、ディープインパクトだった (撮影:下野雄規)



 「勝てないから来ない」という悪循環が定着した中で、今では遠征馬の陣営が奇特に見えるほど。オブライエン厩舎の場合、一軍半以下は「使い倒す」傾向があり、次年度に一線級に投入する「予選」と位置づけている。昨年のアイダホは、10番人気で5着と健闘した。賞金3000万円は欧州ならかなりレベルの高いG1の優勝賞金に匹敵する。昨年は十分にペイする結果となったが、決して確率は高くない。それでも、1つの営業方針としているのだろう。

 サンダリングブルーの方はわかりやすい。JCは今まで戦った舞台よりはるかに格式が高く、関係者への歓待ぶりも有名だ。同馬は13年の天皇賞・春で3着に入ったレッドカドー(英)と似たタイプ。カナダ国際2着の前は、スウェーデンの国際G3、ストックホルム国際競走を勝った「グローブトロッター」だ。レッドカドーよりは相当に格下だが。

基本は「勝てないから来ない」


 外国馬はなぜ来ないのか? もはや言い古された質問である。今回、7日にカプリと似たキャリアを持つ3歳馬ラトローブ(アイルランド)が追加登録をしたため、JRAは3頭目に期待していたが、ギリギリで断念。12年ぶりに外国馬が最少タイの2頭となった。世界トップ級の1着賞金3億円に加え、褒賞金も積み増しているが効果はなく、報奨金は予算編成だけで執行されていない。同じ2400メートルで、よく比較される香港ヴァーズの場合、1着賞金855万香港ドル(約1億2400万円)だが、遠征馬は比較的に多く、施行者側は日本馬を常連として期待している。

 一方で、欧州馬も来るには来るが、前記のグローブトロッター型が多く、世界の超一流は少ない。過去のレースレートを平均して算出した国際競馬統括機関連盟(IFHA)の「ワールドトップ 100G1レーシズ」によると、JCは121.25で12位。香港ヴァーズは118.75で40位と相当な差がある。日本と香港の2400メートル路線の実力差を反映している一方、遠征馬の質もそう高くないことを意味する。

 日本と香港のRT比較からわかる通り、海外(主に欧州)勢のJCパッシングは、「勝てない」のが最大の理由。一方で、日本馬は昨年5月の香港G1、クイーンエリザベスII世C(シャティン・芝2000メートル)を最後に、海外G1勝ちがない。中途半端な状況だが、遠征をブロックするには十分である。

遠征馬誘致に馬場を変える?

 遠征馬が少ない理由として、よく言及されるのは検疫と馬場である。検疫手続きの煩雑さは、国家の防疫政策の問題で、オーストラリアの厳格さは日本の比でない。馬産のない香港(なぜか生産を伴うことが条件のはずのパートIに指定されたが)と、日本を比較するのは論外である。競馬業界が熱心に運動したところで、簡単に変わるものでもない。

 そこで出てくるのが、「馬場を軟らかくしよう」という議論である。だが、世界の競馬国で、外国馬を招致するために馬場を変えようという話が出たのを筆者は寡聞にして知らない。あれほど往来の多い英仏でさえ、パリロンシャンとアスコットは、ほぼ異種格闘技である。だから、「キングジョージ」と「凱旋門賞」を勝てば歴史的名馬となる。

 世界の競馬と言っても、国ごとに馬場のあり方には大きな差があり、競馬国の数だけガラパゴスがある格好だ。各国が気候風土や生産の状況を踏まえ、最適な馬場を追求するのは当然で、JC一戦のために、年間200競走程度を施行する東京の芝を変えるのは本末転倒である。

 百歩譲って、「欧州で通用する日本馬を育てるため」の主張であれば、辛うじて理解可能な範囲とは思う。ただ、そのためには業界内の徹底的な論議を経た合意形成が必須である。日本の現実に合った馬づくりに投資してきた生産界が、簡単に同意するとは思えない。

 加えて、馬場を軟らかく設定した場合、極めて重大な問題が生じる。JRAは「毎週走ります」というスローガンを掲げ、年末年始も休まず競馬を開催。冬でも1日3-4戦は芝が使用される。欧州の馬場は芝丈が長い一方、路盤は軟らかくボコボコしている。一雨来れば後遺症は長く残る。冬場に長いシーズンオフを置く(近年は全天候場の施行も増えたが)のは、馬場の回復に時間がかかるからだ。JRAで欧州のような馬場をつくるのなら、通年開催を捨てる覚悟が必要である。

 実は筆者もシーズンオフ導入論者だが、目的は馬場を軟らかくすることではない。降雪などのリスクを問題視するからだ。夏場も今年のような災害級の炎暑が続くのであれば、北海道以外は休むべきで、開催規模の縮小もやむを得ないと思う。

 余談になったが、シーズンオフ賛成派は少ないはずだ。通年開催であればこそ、業界関係者には安定的に賞金や諸手当が入り、オフの間の生計の心配もない。芝を軟らかくする設定が、通年開催を脅かすのであれば、関係者の合意形成は不可能だ。

最後の選択は開催時期の見直し

 JCの創設は1981年。3年後には北米でブリーダーズカップ(BC)が始まり、かなり後だが99年に香港カップが2000メートル戦となり、国際G1に昇格した。JCの存在感低下は、後発の国際競走に後出しジャンケンで負けた結果である。それでも勝つには欧州から遠すぎたし、世界の中でのステータスも低かった。

 現在の開催時期である11月末は、欧州のシーズン終盤(10月半ば)から間隔が長すぎて、有力馬の状態を維持するのが難しい。だから、11月1週のBCには出ても、JCには来ない。香港に行くのは前記の通り、一流半に近いグローブトロッター。ここで綱引きをしてもさほど意味はない。

 JCの注目度を本気で回復させるなら、残る手段は時期の見直ししかない。手術の対象は、国内の有力馬をいたずらに海外に流出させている上半期の競走体系。頂点には、天皇賞・春の存在がある。当コラムでも繰り返し述べてきた通り、現在の上半期の中長距離路線の編成はバランスも使い勝手も最悪だ。

 19年の場合、大阪杯は3月31日で、宝塚記念が6月23日。最も気候の良い4月末と5月初旬に、2000~2400メートルを得意とする馬は、我慢して3200メートルを走るか、海外に出るか休むかの三択である。他の国際競走との兼ね合いに留意する必要はあるが、5月のどこかにJCを置いた方が、今よりはマシではないか。

 京都開催も選択肢だろう。ひと頃に比べて、京都はタイムを要する状況が続いている。来年度の重賞日程は発表済みだが、今年とほとんど変化がなく、停滞感が色濃い。上半期の競走体系の大幅改編とJC移設は、停滞感を打破する1つの手ではないか。それでもダメなら…。その時は、国際競走の看板を降ろし、普通のG1と扱うしかあるまい。

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