2018年11月1日(木) 18:01
【天皇賞(秋)】3週連続GI勝利!ルメール騎手の一体何が凄いのか?
▲レイデオロ騎乗のC.ルメール騎手が平成最後の天皇賞(秋)を制覇(撮影:下野雄規)
平成最後の天皇賞(秋)は、C.ルメール騎手騎乗のダービー馬・レイデオロが勝利。ルメール騎手はこれで3週連続GI制覇となり、年間GI勝利数の最多記録にも並ぶなど文字通り絶好調。ファンの間でも「ルメールを買っておけば(馬券が)当たる」とまで言われるその飛び抜けた技術力。一体何が凄いのか? 哲三氏がメンタルと騎乗技術、両方の側面から分析します。(構成:赤見千尋)
「展開は後付け、まずは自分の競馬をすること」
天皇賞(秋)は2番人気のレイデオロが正攻法の競馬で勝利し、クリストフにとっては3週連続のGI制覇となりました。このコラムでも引き続きクリストフの騎乗についてお話しようと思いますが、何度も触れているだけになかなか目新しい視点を探すのも難しくなってきましたね。クリストフはいつ見ても落ち着いて乗っているのがすごい。同じレイデオロに騎乗したレースでも、ダービーの時には途中で動いていって、3コーナーくらいまでに自分の中で『勝てるポジション』を取りに行くという競馬でしたが、今回はまったく違う競馬を見せてくれました。
東京2000mというのはスタートしてすぐにコーナーに入るので、みんながみんな早めにいいポジションを取りたいと考えるコースです。だからこそスタートからコーナーまでの間に不利を受けてしまったり、自分が不利を与えてしまったりする。ジョッキーはみんな気を付けて乗っていますが、どうしても不利が起こってしまう場合があります。
今回のレイデオロは、ゲートを出てから不利もなく最初のコーナーを乗り切った。もうスムーズに行きすぎと言えるくらいスムーズだったんじゃないでしょうか。クリストフの騎乗ぶりもまったく焦りが見えないし、馬と一体感があるんですよね。今のレイデオロの状態でどう乗るべきなのか、こういう状態だったらこう乗る、これはやっちゃいけないなということをしっかりと把握していると感じます。
■10月28日 天皇賞(秋)(4番:レイデオロ)
直線を向いてから追い出す時も待つ余裕があったし、置かれ過ぎず、絶妙なタイミングで追い出した。まさに教科書通りの競馬だったと思います。ちょっとでも噛み合わないところがあるとGIは勝てないものですし、大舞台でシンプルに教科書通りの競馬ができるところがクリストフの凄さです。
なぜどんな場面でも、いつも落ち着いていられるのか。それは、展開というものを後付けで捉えているからではないかと思うのです。
今年の天皇賞(秋)は逃げ馬不在で、どの馬が逃げるのか、どんな展開になるのかということが漠然としていました。その中で、展開をシミュレーションすることは大切ですが、もっと大事なことは『自分の競馬をする』ということではないかと。
4枠4番からゲートを出して、どこをどう通って行くのか。向正面に入った時、何頭前にいるのか何頭後ろにいるのかということは、実はあまり重要視していないのではないでしょうか。重要なのは、自分の馬が自分の思い通りに動かせているかということであって、展開は後からついてくるという考えなのではないかと感じます。もちろん展開を考えることは大事ですが、考えてもその通りにならないことの方が多いわけですから。
このレースの中で僕が一番気に入っている場面が、クリストフがゴール後に右手でガッツポーズした後、再び手綱を持ちに行くところ。マニアックな視点ですみません(笑)。手綱を持ちに行ってすぐに掴むのではなくて、その時の馬のクビの動きに合わせて一度拳を前に出してから掴んだんです。
▲ゴール後に右手でガッツポーズ「マニアックな視点ですみません(笑)」(撮影:下野雄規)
ガッツポーズをすると人間のバランスが崩れやすいし、ゴール後ですから馬の動きをそこまで慎重に考えず、すぐに手綱を引っ張って自分のバランスを整えるという選択もある中で、意識はしていないのでしょうが、自然に馬の動きに合わせている。
この場面には、僕がいつも言っている『馬のクビの回転に合わせた動き』が見えるし、そこに折り合いがつく技術が隠れているのだと思います。
前にもこのコラムで触れましたが、馬の図などを使って『馬に負担の掛からない騎乗』について、じっくりとご説明したいと思っています。クリストフはオリビエ(・ペリエ)と体の使い方などが似ていて、タイプ的に近いものがあるのではないかと。あくまでも僕個人の感想ですが、クリストフ、ミルコ(・デムーロ)、モレイラ、(武)豊さんなど名手と呼ばれるジョッキーそれぞれ乗り方が違いますから、文章だけではわかりづらい部分を解説できる機会を模索中です。
サングレーザーは距離が不安視される中、中団から伸びてきて2着に入りました。展開が向いた面もあるけれど、それだけでは片づけられないと思います。頑張った馬も、距離を持たせた陣営もさすがですが、モレイラの騎乗ぶりも光っていましたね。
これまでモレイラは、日本での騎乗は北海道開催が中心で、その中で早め早めの競馬で結果を出して来ました。それが直線の広い東京コースに変わった時にどうなるのかと楽しみにしていたのですが、やはり戦術的に変わってきていて、脚の使いどころを変えてきている。対応力も含めてさすがだなと思います。
逃げ馬不在の中、キセキ&(川田)将雅が逃げる形になりました。スタートはヴィブロスの方が速かったけれど、思い切りよく前に行って先手を取り切ったし、その『思い切りよく』の中にスピードをコントロールする技術がたくさん入っていると感じました。
今週の注目コンビ
▲初の中央開催となるJBC、大本命に注目!(撮影:高橋正和))
今週注目しているのはJBCクラシックのケイティブレイブに騎乗する福永くんです。今年はJRAでの開催ということで、持ち前の先行力を活かして勝利を掴んで欲しいです。
(文中敬称略)