哲三の眼

▲ダート界の新チャンピオン!ルヴァンスレーヴが中央GI初V (c)netkeiba.com


ダート頂上決戦・チャンピオンズCは3歳馬のルヴァンスレーヴが完勝。古馬勢相手に世代交代を成し遂げ、正真正銘のダート王に輝きました。このレースで哲三氏が注目したのは、ジョッキーの“勝ちに動く競馬”に対する心理。M.デムーロ騎手を始めとする外国人ジョッキーたちがGIで結果を残し続ける理由に迫ります。この他、8番人気のウェスタールンドに騎乗した藤岡佑介騎手の“計算”に注目。前残りの決着にもかかわらず、後方から2着に健闘できた理由とは。(構成:赤見千尋)

「勝ち急いではいけない」は昔の一流


 チャンピオンズCは秋のGI戦線でずっといいレースをしながらも、悔しい想いをして来たミルコの勝つところが見られて嬉しかったです。期待もしていたし、どういう競馬っぷりになるのかなと思いながら見ていたのですが、好スタートを決めていいポジショニングに付けたところがまずさすがだなと。

 この秋のGI戦線の振り返りでは、勝った馬たちのほとんどについて「好スタートを決めて来た」というフレーズが出ていると思いますが、今回も内枠に人気馬が入って、ミルコが上手くゲートを出したというところが勝因ではないかと思います。

■12月2日 チャンピオンズC(2番:ルヴァンスレーヴ)

 普段前に行かない馬が先行するということはいろいろなプラスαがあります。例えば先行馬は切れ味勝負になると分が良くない馬が多く、抜け出したい時にそういう馬たちが壁になることがありますが、自分自身が先行すればそういう壁の心配はなくなります。それに、もし先行馬たちがそれでも前に行きたいと思ったら、さらにダッシュを付ける必要があり、力を消耗することになる。

 差し馬だけれどある程度のポジショニングを取って、レースを優位に進めるというのは僕も好きなレーススタイルの一つなのですが、ミルコはどちらかというと、後ろから自分の馬の脚を溜めて、終いの脚をしっかりと伸ばして上位争いに食い込んで来るというイメージが強いジョッキーです。

 でも今回は前に付けて行く器用なレースを展開し、もう1コーナーを回ったところで勝つんだろうなと。「ミルコやるな」と思いながら見ていました。あの形になれば、もし途中でマクッて来る馬がいたとしてもそこから進出して行けばいいし、ポジショニングが最高なんですよね。

 先ほども触れましたが、特にここ3週は後ろから行っていた馬を前に持って行って勝つというレースが続いています。ビュイック、クリストフ、ミルコというトップジョッキーたちがそういうレースを選択して勝ったわけです。いつも前が絶対有利かと言われればそういうわけではないけれど、今の競馬というのは後ろから末脚を伸ばしてという競馬をしてもなかなか勝ち切ることはできないんですよね。

 展開や馬場などいろいろなことを考えた時、「前に行った方が得ではないか」と判断したら、例え差し馬であっても前に行く努力をする、それがトップジョッキーたちの考えであり、今の競馬なのではないでしょうか。

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▲「“例え差し馬であっても前に行く努力をする”それが今の競馬なのでは」 (c)netkeiba.com


 僕が若い頃は、「自分から勝ちに動いてはいけない」「勝ち急いではいけない」という風に教えられましたが、それは昔の一流の乗り方であって、今の一流というのはそういう考えではないのではないかと。今まで前に行っていなかった馬をここぞの時に先行して、自分でレースを作ってしまう。簡単なことではないですが、今回のミルコも誰も手出しできないレースを作り上げてしまったわけで、ルヴァンスレーヴの能力は相当高いと思いますが、馬の力に騎手の力が加わったからこそのレースだったと感じました。

4コーナーで光った藤岡佑介騎手の“計算”


 2着は8番人気だったウェスタールンドが内からよく伸びて来ました。騎乗した佑介は、最後方から思い切った競馬、腹を括った競馬をしましたが、その思い切った競馬の中でも繊細さが光っていました。

 最後方というポジショニングは気にしないけれど、内ラチ沿いを走るということはしっかりこだわっていた。後ろからだから、結局外から差すからという考えで、内ラチにこだわりを持たないジョッキーもいますが、例え後ろから行くとしてもやっぱり内ラチ沿いというのは付けられたら付けた方がいいと思うんです。

 特に今回騎乗した佑介の馬は、外からマクッて行くよりも内を突いていった方がいいなと感じるところがあるし、中京の1800m、GIの場合はみんな4コーナーを回ったら外に出したくなるので内ががら空きになるんです。4コーナーを回ったところで前にいる差し馬よりも、2,3馬身内ラチ沿いを走って来ているので、しっかり得する乗り方を計算できていたなと。

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▲「4コーナーを回ったところで前にいる差し馬よりも、しっかり得する乗り方を計算できていた」 (c)netkeiba.com


 もちろん、差し馬で外を回るという選択の方がいい場面もあるし、外からじゃないと伸びない馬もいる。でも馬群の中を突っ込める馬もいるし、今回のようなペースでは大外を回って勝てるわけがないんですよね。その場面その場面で自分の馬にフィットした競馬に切り替えていかないと。理に適った競馬をした上で勝つのか負けるのか、というレースを僕は見たいと思っています。

 その点、佑介は自分の馬の持ち味をしっかりと出せたのではないでしょうか。集中力を途切れさせないよう内ラチ沿いを行って、コースロスなく進み、4コーナーでは外に出したい騎手が多い中、しっかり内を突いた。

 今後、4コーナーで内がガラガラに開くレースがGIであるのか、例えばフェブラリーSだったら、と考えるとその時はまた難しくなると思うけれど、今回の馬の並び、展開をしっかり読んで、自分の馬に対して、ここを通ってこういう展開だったらということが、おそらく2コーナーを回った辺りから見えていたのではないかと。だから途中で押し上げるよりも、しっかり内を突くということを選択したのではないかと感じました。もちろん1着の方が良かっただろうけれど、人気からすると好結果と言えるのではないでしょうか。

今週の注目コンビ


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▲阪神JF・シェーングランツが姉妹制覇へ!(撮影:下野雄規)


 今週の注目は阪神JFでシェーングランツ騎乗の(武)豊さんです。前走の計ったような差し切り勝ちを今回も期待したいです。

(文中敬称略)