海外競馬通信

▲オープニングセレモニーには、各国のトップジョッキーが集結!


ヴァーズ、スプリント、マイル、カップ、4つのG1をすべて地元香港馬が勝利。日本からは9頭が参戦するも、善戦むなしく3つのレースで2着と惜敗に終わった今年の香港国際競走を斎藤修さんが回顧します。(取材・文:斎藤修、写真:高橋正和)


今の香港国際競走は、香港と日本のお祭り


 地元香港にとっては画期的な年になったのではないか。なかなか勝てないと言われた香港ヴァーズを地元のエグザルタントが勝った。香港調教馬がヴァーズを制したのは1998年のインディジェナス(当時は国際G2)、2013年のドミナントに続いて3頭目。そして何より、4つの国際競走完全制覇は初めてのこと。

 日本馬では2001年に、ステイゴールドがヴァーズを、エイシンプレストンがマイルを、そしてアグネスデジタルがカップを制しておおいに盛り上がったことがあったが、香港にとってひとつの転換点となったのが、その翌年、2002年のこと。それまでは外国からの遠征馬に対してほとんど太刀打ちできなかったのが、ヴァーズ以外の3競走で香港調教馬が勝利。香港の競馬関係者のたいへんな喜びようは今でも覚えている。

 以来、香港調教馬はどんどん強くなって、2011,13,14,17年にも4戦のうち3戦を制している。それでどうなったかといえば、日本のジャパンCと同じように、近年では外国からの遠征が少なくなった。とはいえ1日に国際競走が4レース実施されることや、ヴァーズの2400mの路線ではまだまだ欧州勢が強いということもあり、『ジャパン・オータムインターナショナル』より国際色はある。

 地元香港と日本の活躍は年を追うごとに顕著になっていて、今回の1〜5着馬の調教国を並べてみると以下のとおり(左が1着馬)。

 ヴァーズ:香・日・愛・香・仏
 スプリント:香・香・香・香・香
 マイル:香・日・香・日・香
 カップ:香・日・香・日・香

 日本調教馬は計9頭が参戦し、勝利こそなかったものの3頭が2着、5着以内には5頭が入った。半数以上が掲示板というのは、遠征競馬ということを考えれば好成績といっていいだろう。マイルとカップで香港と日本が交互に並んでいるというのも、2国での寡占状態を顕著に示している。

 対して香港・日本以外の国はといえば、英8頭、愛3頭、仏2頭、星(シンガポール)・豪各1頭の計15頭が出走し、前記のとおりヴァーズで3着と5着に入ったのみ。今の香港国際競走は、まさに香港と日本のお祭りだ。

 ではレースごとにポイントとなったところを中心に振り返ってみよう。

香港ヴァーズ(クロコスミア、リスグラシュー)


 香港ヴァーズは、最内枠から好スタートを切ったクロコスミアが平均的なラップを刻んで逃げたものの、直線半ばで失速。ぴたりと2番手につけていたエグザルタントが先頭に立ったところ、14頭立ての12番手から4コーナーで中団まで位置取りを上げたリスグラシューがとらえにかかって2頭の一騎打ち。一旦はリスグラシューが前に出て、勝ったかと思ったところ、エグザルタントに差し返された。

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▲まばたきも忘れるほどの直線の攻防を制したのは香港馬エグザルタント


 横からの映像ではあまりわからないが、矢作調教師のコメントにもあったとおり、たしかに直線でリスグラシューが内にもたれている。正面からの映像を見ると、エグザルタントを押圧するように馬体を併せたまま進路が内に寄っていっているのがよくわかる。モレイラ騎手はおそらくそれを修正しながらで追いづらかったことだろう。差し返されたのはそのぶんだった。

 そして日本でも香港でも単勝1番人気に支持されたのは、凱旋門賞4着など実績最上位のヴァルトガイスト。4番枠のスタートから中団のラチ沿いを追走したものの5着。P.ブドー騎手は「進路が狭くなって不運だった」と話している。たしかに直線を向いたところでは、外に持ち出そうとしたパキスタンスターに前をカットされ、さらに残り300mあたりで内からイーグルウェイ、外からロストロポーヴィチが寄ってきて進路を塞がれてもいる。残り150mあたりから伸びたものの時すでに遅しという状況だった。

香港スプリント(ファインニードル)


 香港スプリントに挑戦したのが、今年の日本のスプリントチャンピオン、ファインニードル。好スタートを切ったものの中団まで位置取りを下げ、それでも4コーナーでは1、2着馬と並ぶような絶好位につけた。そこから弾けるかにも思えたが、直線では馬群に飲み込まれる形となってしまった。流れに乗れなかったようなレースぶりは、地元のピンウースパークがゲート入りを嫌がり、結局除外となるのだが、それまでゲートの中で長く待たされたため。馬のテンションが下がってしまったことが敗因として挙げられた。

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▲ファインニードルは本来の力を発揮できなかった


 勝ったミスタースタニングは抜群のスタートから一旦3番手に下げ、直線での追い比べから抜け出した。2着のディービーピンは、ぴたりとラチ沿いを回って勝ち馬をマークする位置から同じような脚色で伸びた。結果、昨年と同じワンツー。ミスタースタニングが近走で勝ちきれていなかったのは斤量差もあってのこと。ディービーピンは10カ月ぶりの復帰戦で9着と負けていただけに香港でも日本でも6番人気だった。香港勢が得意とするスプリントやマイルでは連覇している馬が複数いるように、国際レースで強い馬というのは確かにいる。

香港マイル(ペルシアンナイト、モズアスコット、ヴィブロス)


 香港マイルでは、ビューティージェネレーションの強さに驚かされた。3コーナー手前で先頭に立つと、あとは後続との脚色を図りながらのレース。直線を向いて軽く追われただけでムチは一度も使われていない。直線半ばで鞍上が後ろを振り返ったあと、さらにその差を広げてゴールとなった。前哨戦のジョッキークラブマイルでは、勝ったとはいえ直線で外へ外へと逃げていくなどしていたため、ここへ向けて不安説もあったが、あらためてこの大一番で圧倒的な強さを見せた。

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▲直線では圧巻の強さをみせたビューティージェネレーション


 直線で10頭ほどが横に広がり、まさに激戦となった2着争いを制したのは、最後までしっかり脚を使ったヴィブロス。4歳以降、日本で馬券にからんだのは、昨年の府中牝馬Sでのクロコスミアの2着だけ。対して海外遠征では、昨年ドバイターフを制し、今年は2着。そして今回も持ち味を発揮して2着。外国に遠征して能力を発揮する馬というのはたしかにいる。

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▲日本勢最先着のヴィブロスは2年9か月ぶりのマイル参戦だった


香港カップ(サングレーザー、ステファノス、ディアドラ)


 香港Cは、典型的なスローペースの前残りだった。逃げ切ったグロリアスフォーエバーが刻んだラップ(400mごと)は、25.88 - 24.68 - 24.06 - 24.09 - 23.00 というもの。ゆったりしたペースから入って、徐々にペースが上がっていくというのは、香港2000mのスローペースの典型。

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▲香港の典型的なスローペースをものにしたグロリアスフォーエバー


 前哨戦のジョッキークラブCは、グロリアスフォーエバーとタイムワープが互いに譲らず直線まで競り合い、暴走ともいえるハイペースとなって1200m通過は1分11秒33。そのときの勝ち馬は、今回香港ヴァーズに出走(4着)していたイーグルウェイで、1分59秒30というコースレコードでの決着だった。他の騎手たちにそのレースのイメージがあったのかどうか、しかし今回その2頭は競り合うことなく、グロリアスフォーエバーの単騎逃げで、控えて2番手がタイムワープ。ジョッキークラブCと同じGOODの馬場で1200m通過が1分14秒62と、3秒以上も遅いペース。それでいて縦長の中団よりうしろからでは届くはずもない。

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▲1番人気に支持されたディアドラも負けたものの強さを証明した


 日本馬は、サングレーザーが中団4番手、そのうしろ5番手がディアドラで、ステファノスはさらにうしろから。それでも抜群の末脚で見せ場をつくったのがディアドラだった。グロリアスフォーエバーをとらえるには至らなかったものの、2番手で粘っていたタイムワープをとらえたレースぶりは、まさに負けて強し。ドバイターフでは2着のヴィブロスにクビ差の3着(リアルスティールと同着)だったが、遠征して強い牝馬がここでも魅せた。

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