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▲リスグラシューの背中をよく知る矢作厩舎の岡勇策調教助手


惜敗続きだったリスグラシューがエリザベス女王杯で念願のGIタイトルを手にした。「堅実な成績ということは、それだけ悔しい思いもしてきました」とは矢作芳人調教師の言葉。GI2着4回にピリオドを打った女王は今週、僚馬モズアスコットと共に海を渡り香港ヴァーズ(12月9日、シャティン芝2400m)に出走する。調教に跨る岡勇策調教助手が背中で感じる成長とは。(取材・構成:大恵陽子)

「実際は+12kg以上」夏の放牧で大きく成長


 エリザベス女王杯で好スタートを決めたリスグラシューは“マジック・マン”ことジョアン・モレイラ騎手を背に中団からレースを進めた。4コーナーを回り切ったところでわずかに外へ導かれると持ち前の末脚を伸ばし、2着クロコスミアとの接戦を制してGIタイトルを手にした。

「今までの悔しさがあった分、なおさら嬉しかったです」

 攻め馬専門助手としてリスグラシューの調教に跨る岡助手は笑った。

 レース直後の検量室前では喜びの握手をし、肩を抱き合う多くの関係者の姿が見られた。

 4歳ながらGIでの2着は実に4回を数える。今春のヴィクトリアマイルでは渾身の追い込みで勝ち馬ジュールポレールとぴったり鼻面を合わせてゴールするも、わずかに届かなかった。

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▲惜しくもハナ差の2着に終わったヴィクトリアマイル(撮影:下野雄規)


 リスグラシュー自身はいいレースをしているのに、少しだけ前にはいつも誰かがいた。

 “あと一歩”を補うため、指揮官・矢作師からはどんな指示があったのだろうか。

「特には言われませんでした。自分たちスタッフで考えてやるというのがうちの厩舎スタイルでもあります。勝たせないといけない馬だと思っていたので、考えすぎずにとにかくいい状態に持っていこうと思っていました」

 その思いにリスグラシューは馬体の成長で応えた。秋初戦の府中牝馬Sでは12kg増の460kg。

「夏の放牧中に成長してくれました。トレセンではもう少し体重があって、輸送で減っての460kgです。若い頃はカイ食いに苦労しましたが、最近はよく食べてくれるようにもなりましたね。乗っていても3歳春くらいは細いと感じていましたが、この秋はどっしりした感じというか、筋肉もついてすごく成長をしたなと思いました」

 綺麗な顔立ちと品のある雰囲気はそのままに成長をとげ、調教でも変化が見えた。

「この秋、僕はオーストラリアに行っていてしばらくリスグラシューに乗っていない時期があったんですが、帰国後、エリザベス女王杯直前に2〜3日乗ると『あ、すごい良くなったな』って感じました。府中牝馬Sは休み明けでまだまだ上がり目がありそうやなって感じだったのが、1回使って良くなったのがすごく伝わってきていたんです」

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▲成長したリスグラシューはエリザベス女王杯を制し厩舎の期待に応えた(C)netkeiba.com


 この状態の良さは現在も維持している。

「短期放牧に出ていましたが、帰ってきてからも引き続きいい状態です。28日の国内最終追い切りにも乗せてもらいましたが、すごく状態が良かった前回から変わらず調子が良さそうですね。検疫厩舎に移してから本来のカイ食いほどではないですが、食べてはくれていますし、成長して体も大きくなっていますからね」

紙一重の賢さ


 一方で、課題はテンションと輸送になりそうだ。

「普段は大人しいんですが、坂路に入る前はスイッチが入ってテンションが上がることがあるんです。パドックでも気合いが入るのですが、馬が分かっていて競馬モードのスイッチが入るのかな」

 という賢さが、時に裏目に出ることもある。

「長距離輸送をするとスイッチが入り過ぎてしまうんです。東京ではパドックもイレ込むほどじゃないんですが、うるさい時がありました。その点、エリザベス女王杯は京都で近くて、比較的馬が落ち着いていたのかなと思います。

 香港は初めての飛行機輸送。音がすごいようなのでテンションが上がらないかと、初めての場所に対応してくれるかどうかですね。こればかりは行ってみないと分からないですが、無事にクリアしてくれれば状態はすごくいいので楽しみです」

 香港には僚馬モズアスコットも遠征し、現地では併せ馬での調教も予定されていることはリスグラシューにとってプラスに働くだろう。

 モズアスコットについて宮内茂貴調教助手は「中2週で輸送もある中で、国内最終追い切りの時計はちょうど良かったと思います。前走・マイルCS後は(4コーナーの不利で)全体的なダメージがありましたが、走っていないので筋肉のダメージはありませんでした。追い切りの感触も動きも良く、テンションも意外と落ち着いています」という。

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▲安田記念を制したモズアスコットもリスグラシューと共に香港へ!(撮影:下野雄規)


「リスグラシューは体型的にも距離はこなしてくれると思いますし、2200mのエリザベス女王杯では心配していた折り合いもジョッキーが上手く乗ってくれました。引き続き同じジョッキーが乗ってくれますからね」

 惜敗続きだったということは、高いレベルで常にレースを走ってきたということ。2着の殻を破ったいま、ふたたび大きなタイトルに手をかける。



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