海外競馬通信

▲今回のテーマは遠征での様々な出会い、(左から)坂井騎手、小崎騎手、野中騎手


短期免許で来日する外国人騎手が目立つ一方で、日本の若手騎手たちが果敢に海外に挑戦しています。2017年8月から4カ月間オーストラリアに滞在した小崎綾也騎手(23)、2018年3月から7カ月間アイルランドで修行した野中悠太郎騎手(22)、2017年11月から1年1カ月の長期間オーストラリアに行っていた坂井瑠星騎手(21)。遠征中はnetkeibaで連載コラムを担当してくださった3騎手の対談が実現しました。

第4回目の今回は、「遠征の成果を左右したキーパーソン」。期間延長出来るかの瀬戸際で手を差し伸べてくれた人から、衝撃を受けた天才的な巧さの若手ジョッキーまで、様々な人物とのエピソードを明かします。

(取材・文＝不破由妃子)


トップはデビュー2年目の“天才”女性ジョッキー


──遠征期間中には、たくさんのホースマンとの出会いがあったかと思いますが、なかでも遠征の成果を左右したキーパーソン、あるいは影響を受けた人物について教えてください。

坂井　僕にとってのキーパーソンは、やはり6月から契約していただいたライアン・バルフォー調教師ですね。4月の終わりに遠征期間を延長することに決めたんですが、その時点ではまだどこからもオファーがきていなくて。

小崎　たしかメルボルンに戻る予定だったんだよな。

坂井　はい。メルボルンに戻るか、別の国に行くか…という感じでしたね。

野中　別の国に行くという案もあったんだ。

坂井　そうなんですよ。選択肢も絞られていて、けっこう話も進んでいたんです。で、そろそろ決めなければ…というときにライアンからオファーをいただいて。契約以降は、毎開催乗り鞍をいただいて、本当に充実した時間を過ごすことができました。今でも「彼がいなかったら、僕はどうなっていたんだろう…」って思いますからね。

──坂井騎手の働きぶりを陰ながら評価されていて、それがオファーに繋がったんでしたよね。

坂井　はい。そう言ってくださいました。今でも連絡をくれますよ、「寂しいよ」って(笑)。

野中　僕もお世話になったジョン・ムルタ調教師には影響を受けましたね。とにかく調教師としての仕事量が半端じゃない。人が足りないときは、調教師自らハミや鞍を付けて6頭くらい乗ってましたし、寝藁を上げているのも見たことがあります。

海外競馬通信

▲野中騎手「ジョン・ムルタ調教師は、とにかく調教師としての仕事量が半端じゃない」


小崎　そうなんや。それはすごいな。

野中　とにかく常に動き回ってましたね。テレビのコメンテーターもやっていて、大きい開催があるときは、朝の調教を見てからイギリスに行くんです。で、その日の夜に帰ってきて、翌日の朝には調教に出ていましたからね。一流といわれる人は本当に妥協を許さないんだなっていうのを肌で感じて、もうただただ尊敬というか。

──帰国前に2週間ほど師事していたエイダン・オブライエン調教師についても、同じような感想を抱いていらっしゃいましたよね。

野中　はい。エイダンについては、現地の人から「彼は365日、1日も休まずに働いている」と聞きました。実際、アメリカに行ったと思ったら、翌朝にはアイルランドで調教を見ているし、さっきまで調教を見ていたと思ったら、もうイギリスの競馬場にいたりしますからね(笑)。彼もまた、一切の妥協を許さない一人で、一流の働き方を学べた気がします。

小崎　僕がお世話になったクリス・ウォーラー調教師はちょっとタイプが違って、一流の経営者っていう感じやった。もともと馬に乗る人ではないので、そのぶん役割分担がしっかりしていて、厩舎にはレーシングマネージャーやビジネスマネージャーもいたりして。調教師としてだけではなく、経営者としても尊敬できる人だったな。

──クリス・ウォーラー厩舎といえば、ヒュー・ボウマンやケリン・マカヴォイが主戦ですよね。彼らの存在も刺激的だったのではないですか？

小崎　それはもちろんです。ボウマンやマカヴォイといったトップジョッキー間で乗り馬を回していくことが多かったんですが、メインの開催になると、ローカルで僕が乗っていた馬に彼らが乗ることもあったんです。

　もちろんそれで勝つこともあって、直接その馬について話を聞いて、自分が感じたこととすり合わせてみたりだとか。レベルの差を見せつけられることがほとんどでしたが、ものすごく勉強になりましたし、刺激がありました。

坂井　僕もクレイグ・ウィリアムズには刺激を受けましたね。彼は日本語を少し話せるのですごくお世話になったし、僕がいるあいだにいくつもGIを勝って、すごいなぁと思って見ていました。あと、刺激を受けたといえば、僕が途中から行ったサウスオーストラリア地区のトップジョッキーで、なんと22歳の女の子！

野中　若い！

坂井　ジェイミー・カーというジョッキーなんですけど、これがまた天才的に巧いんですよ。衝撃的でしたね。

小崎　シドニーにも女性ジョッキーはたくさんいたけど、サウスオーストラリア地区にそんなにすごいジョッキーがいるのは知らなかった。俺たちとほぼ同年代だもんね。それはすごいわ。

坂井　男女関係なく、彼女がぶっちぎりのトップでしたよ。トニー・マカヴォイ厩舎の主戦なんですけど、デビュー2年目からぶっちぎりなんですって。

野中　日本に乗りにこないかな。

坂井　「日本にきてよ」って言ってみたんですけどね。「自分の馬がいるから忙しくて行けない」って(苦笑)。彼女、自分で馬を持ってるんです。

海外競馬通信

▲坂井騎手「“日本にきてよ”って言ってみたんですけどね」


小崎　へ〜。競馬で走らせてるの？

坂井　いえ、馬術の大会に出ているんです。実際、オリンピックを目指せるくらいの技術の持ち主ですからね。競馬に乗ってもポンポン勝つし、悔しいとか以前にまったく敵わないなと思いました。

野中　せっかくだから、いろいろ教えてもらえばよかったのに。

坂井　もちろん「教えてよ」ってお願いましたよ。でも、「感覚で乗っているから教えられない」って。ホント、彼女の存在は衝撃的でしたよ。

(文中敬称略、次回へつづく)

netkeiba 関連コラム