GIドキュメント

▲昨年の香港カップ遠征以来の、武豊騎手とのコンビで復活へ (撮影:高橋正和)


スマートレイアー、8歳。白さ増す馬体で、時に気合を全面に出しながら後輩牝馬や牡馬相手に戦う。ファンから「レイアー姐さん」と尊敬される同馬は、6勝を挙げる武豊騎手とのコンビで、自身4度目のエリザベス女王杯に挑む。(取材・文:大恵陽子)

レッツゴードンキも慕うレイアー姐さん


 昨秋の京都大賞典。終始内ラチ沿いを回ってきたスマートレイアーは、直線で内から鋭く伸び、のちにGI馬となるシュヴァルグランやミッキーロケットら牡馬を退け優勝した。

「感動的で嬉しかったです」

 デビュー前から担当する加藤公太調教助手はそう振り返った。武豊騎手とはこの京都大賞典制覇でコンビ6勝目だった。

GIドキュメント

▲スマートレイアーと担当の加藤公太調教助手 (撮影:大恵陽子)


 デビューしたのは5年前、桜花賞当日の3歳未勝利戦だった。

 スタートで立ち遅れながらも武豊騎手に導かれ、既走馬相手に勝利。秋には夕月特別(1000万下)を勝って秋華賞に駒を進めると、道中は後方2番手から直線で外から追い込みメイショウマンボから1.1/4馬身差の2着。

 年が明け、再び桜の季節に阪神牝馬Sを制覇して重賞初制覇を遂げた。

「ゲートについて行っていたのですが、初めての1400mであおって出遅れてしまって、『これはマズいな』と思いました。1番人気で、スタンドのどよめきが向正面のスタート地点にまで聞こえてきましたからね。どうなるんだろう、とバスの中で見ていたら、外からすごい脚で追い込んできて鳥肌が立ちました」

 加藤助手にとってもこれが重賞初制覇。

 普段のレース後と変わらずケロッとしていたスマートレイアーとは対照的に「人間が浮かれちゃいました」と喜んだ。

 一方で、2年後には東京新聞杯と阪神牝馬Sを逃げて勝利。さらに1年半後、冒頭の京都大賞典制覇と、牡馬相手にも戦い抜いてきた。

「前向きすぎるところがあるので、レースではその辺が難しいのかもしれません」と加藤助手は話すが、それは同時に「若い子には負けない!」という気概すら感じる。いつしか一部のファンの間では“レイアー姐さん”と呼ばれるようになっていた。

GIドキュメント

▲白さ増す馬体、ファンから「レイアー姐さん」と親しまれている (撮影:大恵陽子)


 馬の間でも姐御肌なのかもしれない。

 昨年末の香港遠征では飛行機での輸送や調教など一緒に行動していたレッツゴードンキがレイアー姐さんを慕った。レッツゴードンキを担当する寺田義明調教助手はこう証言する。

「他の馬には一切そういうことがなかったのに、スマートレイアーのことが大好きでした。香港では対面式の馬房で向かいだったのですが、陰に隠れて見えなくなると探したり、調教で一緒じゃないと鳴いていたんですよ。スマートレイアーは年上で飛行機とかも慣れていました」

 海外遠征が初めてのレッツゴードンキにとって、レイアー姐さんの存在は頼もしかったのかもしれない。

大久保師「ユタカがつくったような馬です」


 エリザベス女王杯を翌週に控えたある日も、堂々と厩舎周りを歩いていた。

「年齢が馬にどう影響しているかは分かりませんが、年相応には落ち着いてきています。とはいえ、元気がないわけではなくて、調教では元気ですよ。1週前追い切りもタイムは悪くなかったです」(大久保師)

 一方で、熟女ならでは(?)の悩みもでてきた。

「気持ちは若いんですが、体重がなかなか落ちなくて。今までは坂路だけだったのですが、もう少し絞ってしっかり仕上げて出したいので、この中間はCWコースを2周乗ったり、CWコースを半周してから坂路で乗り込んだりしています。運動量を増やして、どこまで変わってくれるかですね」と加藤助手。

GIドキュメント

▲厩舎周りの運動中、体重には特に気を配っているという (撮影:大恵陽子)


 鞍上は昨年末の香港カップ以来となる武豊騎手の予定だ。

 大久保師は「デビューから乗っていて、よく気にしてくれています。折り合いをつけてくれて、ユタカがつくったような馬ですね」と話す。

GIドキュメント

▲追い切り後のスマートレイアーと大久保龍志調教師 (撮影:大恵陽子)


「丈夫で、長い休みもなく毎年コンスタントに走ってきてくれました。エリザベス女王杯もまずは無事に、それでいてミラクルが起きないかなと思います。実績的にはやれていいはず。目の覚めるような追い込みを見たいですね」(加藤助手)

 思い出されるのは冒頭にも記した昨年の京都大賞典のようなレース。

 正式な発表はまだないが、8歳という年齢的にそろそろ引退が近づいているのかもしれない。

「小娘には負けないわよ!」と、レイアー姐さんが追い込んでくる姿をまた見たい。