(左から)那俄性哲也調教師、馬を挟んで神原勝志厩務員、佐原秀泰騎手

▲(左から)那俄性哲也調教師、馬を挟んで神原勝志厩務員、佐原秀泰騎手


かつて「日本一賞金が安い競馬場」と言われた高知競馬で、17年ぶり(注1)に行なわれた新馬戦から誕生した1頭の牝馬がJBCレディスクラシックに出走する。名前はディアマルコ。調教師、騎手、厩務員は2013年に廃止となった福山競馬場から移籍した人たち。

高知競馬も一時期は廃止の危機に瀕していたが、諦めずに競馬の火を灯し続け、通年ナイター「夜さ恋ナイター」開催や電話・インターネット投票の売上げがアップしたことでヒロイン・ディアマルコは誕生したとも言える。そんな彼らのJBCにかける思いとは。

(注1:アラブ系の新馬戦は2003年まで施行されていたが、サラブレッドでは1998年以来となった)

(取材・文・写真:大恵陽子)

見つめる仔馬「私も一緒に連れて帰って」

 ディアマルコとの出会いは偶然だった。

 オーナーと一緒に生産牧場に行った時のことだと那俄性哲也調教師は振り返る。

「放牧地にいたオーナーが私に背中をトントンと叩かれたと思って振り返ると、(ディア)マルコが鼻でつついとったんです。それを見た牧場の人が『私も一緒に連れて帰って、と言っていますよ』って」

 じっと見つめてくるスパイキュール産駒の牝馬をオーナーは気に入り、オータムセールで140万円(税別)で落札。ディアマルコと名付け、高知競馬場に連れて帰った。

 少し前まで高知競馬というと「ハルウララ」や「潰れかけの競馬場」といったイメージを持たれていた。実際、売上げ減少に伴い賞金や手当は下がる一方。高知競馬からデビューする馬は少なく、多くが他地区からの転厩馬が占めていた。

 しかし、通年ナイター「夜さ恋ナイター」の開催や、電話・インターネット投票による売上げ急増により息を吹き返し、ディアマルコが2歳になった年、17年ぶりに新馬戦がいくつか組まれることになった。

 担当する神原勝志厩務員が「能検(レース前の模擬レース)で走りが違っていたんですよ」と言うように、新馬戦を1.8秒差をつけて圧勝。その秋からは遠征にも積極的に出るようになり、3歳春には若草賞(名古屋)、東海クイーンC(名古屋)でともにクラトイトイトイ(船橋)の2着に健闘した。

 そして次走の園田・のじぎく賞では宿敵に勝ち、重賞初制覇を遂げたのだった。

▲重賞初制覇となった園田・のじぎく賞


 「その時の写真をファンの人がくれて、馬房にずっと飾ってるんですよ」(那俄性師)

▲神原厩務員と、ファンから贈られた写真も馬房に飾られている (提供:高知県競馬組合)


 その後、地元では牡馬相手に高知優駿など重賞3勝。また、地方競馬全体で行われている「グランダムジャパン(GDJ)」という世代別牝馬重賞シリーズにおいて3歳シーズン2位になった。

 夏から秋にかけての古馬シーズンにも参戦し3位、昨年も古馬シーズン4位。優勝まであと一歩と健闘するものの、GDJ古馬シーズンの最終戦はレディスプレリュード(JpnII)で、他のレースよりも着順ポイントが高めに設定されていること、また地方馬最先着ポイントがあるためどうしても南関東の馬に有利になってしまいがちだった。

 ところが今年は佐賀ヴィーナスCがGDJに加わり、例年より1戦多くポイント加算ができたことも追い風となり、重賞3勝を挙げて念願の優勝を果たした。

「私は2度とこんな馬、当たらないかもしれないですね。それくらいすごい馬です」と那俄性師は笑った。

  さらに今年はレース内容にも成長が感じられた。

 これまで地元戦でも道中で揉まれてしまうと案外な負け方をしていたのが、秋桜賞(名古屋)では馬群の内から抜け出しての勝利。

 またレディスプレリュードではプリンシアコメータ、アンジュデジール、クイーンマンボなどJBCレディスクラシックにも出走予定のJRA勢に混じって、2番手からレースを進めた。

 デビューから主戦を務める佐原秀泰騎手は興奮気味にこう振り返る。

「JRA馬相手にあんな風に行けるなんて思っていませんでした。昨年はスタートから出ていったものの、ペースが速くてついていけませんでしたからね。(※怪我のため騎乗したのは永森大智騎手)。向正面では自分からハミを取って進んでいってくれたので好勝負できるんじゃないかと頭をよぎりましたよ」

 那俄性師も「3コーナーでは『ひょっとしたら?』って久しぶりに心拍数が上がりました(笑)」

 着順こそ昨年と同じ8着だったが、見せ場をつくっての内容だった。

人馬共に初のJRA遠征「楽しみと不安があります」


 那俄性師、佐原騎手、神原厩務員と3人とも福山競馬(廃止)の出身。

 那俄性師は「僕はそこまで『福山!』って思わないけど、少しでも高知競馬の宣伝になったらなって思います」

 それは佐原騎手も同じ思いのようだ。

 JBCレディスクラシックでは、ともに初めてのJRA遠征となる。

「楽しみと不安がありますね。若い頃のようにイケイケで行けたらいいけど、年を取ると知らない場所では考えることも多いので(苦笑)。でも、選出していただけて光栄ですし、足跡を残せるようがんばりたいと思います」と佐原騎手。

 当日は婚約者で元騎手の下村瑠衣さんも応援に駆け付ける予定という。

「状態は変わりなくいいですよ。いつもは当日輸送なのが今回は規程で前日輸送になるのでカイ食いが心配ではありますが、450kgを切らなければと思います。netkeibaの掲示板でもコメントをいっぱい書いてくださっていてありがとうございます。淀に会いに来てくれて、応援してもらえたら嬉しいですね。それと同時にいい結果を出せればと思います」(那俄性師)

 廃止の危機から復活した競馬場で誕生したヒロインの走りに注目したい。