豪華メンバーが出走予定の天皇賞・秋。残念ながら今年の日本ダービー馬ワグネリアンは出走を見送ることとなったが、友道康夫厩舎からは2016年日本ダービー馬マカヒキ、ドバイターフや秋華賞を勝ったヴィブロスと2頭のGI馬が出走する。今月には出走機会9連続連対の記録も達成。好調な要因はどこにあるのだろうか。友道調教師の厩舎づくりへの思い、そして繋がりの深い騎手や厩舎スタッフが話す「友道厩舎の特徴」から見えてきた長所とは。(取材・文:大恵陽子)

人から言われるより自分からやった方が成果は上がる

 とある水曜日の午前中。調教後の仕事がひと段落した頃を見計らって友道厩舎に行くと、“現役最多タイの日本ダービー2勝”や“リーディング上位”というフレーズから想像するものとは違って和やかな雰囲気が漂っていた。こちら側の都合で、「もしも可能なら、過去にダービー馬やドバイ勝ち馬を担当した経験のある調教助手の集合ショットを撮りたい」とあるスタッフにお願いすると、「おーい、写真撮るって」とお互いに声を掛け合い、笑顔ですぐに集まってくれた。

島助手、安田助手、大江助手

▲(左から)以前の厩舎でウイニングチケットを担当していた島助手、ヴィルシーナやヴィブロス担当の安田助手、マカヒキを担当する大江助手


 厩舎の指揮官・友道師はこう話す。

「人がピリピリしたら馬にも伝わるので、みんなアットホームというか和やかに仕事をしていますね。それは大事だと思って開業当初から心がけています。スタッフとも何でも話し合えます。私自身もそうなんですが、人から言われるより自分から進んでやった方が成果は上がると思うので、厩舎づくりもそういう風にしています」

 自主性を持って仕事ができる背景には、こんなポリシーもあった。

「彼らが言ってきたことは、1回はやってみようと思っています。せっかく言ってきたことを何もやらずに『ダメ』って言うのも何だしね。上手くいけばそれでいいし、ダメならそこで修正すればいいですから。角馬場の運動でも馬術の要素を取り入れているのですが、最初は私から『こうしよう』という話をして、日々のことは馬術部出身のスタッフもいるのでみんなに任せています」

 入念に体をほぐした後、キャンター組は坂路、追い切り組はCウッドコースでの調教となる。トレセンの多くの馬は、馬場状態がいい朝一番やハロー明け(整地後)に馬場入りするが、友道厩舎はピークの時間帯が過ぎてしばらく経ってからやってくる。

「たしかにハロー明けの方が馬場はいいんですが、頭数がすごく集中しますよね。怪我があってもいけないし、密集している時間帯に走らせるよりも自分のペースで走れる方がいいかなと考えています」

 特に開門直後は、時に他厩舎の併せ馬が合体して直線は5頭併せに…なんていう不測の事態もある。追い切りタイムだけでなく、馬のメンタルを考えてのことなのだろう。

 ところでこの6年、毎年GIを制覇している友道厩舎だが、2010年は重賞未勝利、11-12年はヴィルシーナの牝馬三冠2着はあれどGI制覇はなかった。

「気にしてもしょうがないので、今まで通りのことをやっていました」

 冒頭の「ピリピリすると馬に伝わる」という話ではないが、人が落ち込んでいると馬にもいい影響はないのだろう。
 対照的に9月22日-10月6日にかけて出走機会9連続連対の記録をつくったことについては「たまたま恵まれました」と冷静に話した。厩舎のベテランスタッフである島明広調教助手は、伊藤雄二厩舎時代に前記録の8連続連対を経験。

「伊藤厩舎の時も僕が連対を止めてみんなに怒られたような気がするねんけど、そんなことも経験しているから『負ける時は負けるねん』ってプレッシャーをかけないようにしています」と、島助手は大らかな笑顔を見せた。

 経験豊かなスタッフがいることでまた厩舎の雰囲気も変わっていくのだろう。

ヴィブロスに、国内タイトルをもう1つ

「ハイレベル」と謳われる今年の天皇賞・秋。友道厩舎からはマカヒキとヴィブロスの2頭が出走予定。

「2頭ともに勝たせてあげたいけどね、勝つ馬は1頭しかいないし、うちの馬じゃないかもしれないし。それぞれに思い入れや勝たせたい理由があります」と複雑な表情を見せた。

「マカヒキはダービーの後、勝てていないけど、札幌記念(ハナ差2着)はがんばってくれました。去年の秋も負けはしているけど、着差はそこまで離れていなくてもう少しの所まできていたんですよね。

マカヒキと大江助手

▲10月11日に撮影、マカヒキと大江助手


 ヴィブロスにも国内タイトルをもう1つね。去年はエリザベス女王杯で5着。やっぱり距離が長いのかな。姉のヴィルシーナも最初は距離が持つかなって思ったんですが、結果的にGIを勝ったのはマイルでしたからね。それを思うと1600m-2000mがいいのかな。牡馬相手でもドバイで勝っていますし、やれると思いますよ」。

ヴィブロス

▲9月26日に撮影、ヴィブロス


 競馬は10回走れば9回は負ける、と言われるが、厩舎の雰囲気の良さが好循環を生みそうな気がする。
調教後の輪乗りの様子

▲調教後の輪乗りの様子


藤岡康太騎手と友道調教師

▲調教後に話をする藤岡康太騎手(左)と友道調教師


◆騎手やスタッフが証言 友道厩舎はここがすごい!

【藤岡康太騎手】


藤岡康太

▲師が「ワグネリアンの調教が上手い」と信頼を寄せ、厩舎のほとんどの馬に乗ったことがある、今年はワグネリアンと神戸新聞杯を制覇


「1頭1頭に合わせて調教メニューが違って、バリエーションが豊富だと感じます。追い切りや普段の調教でも乗せていただきますが、こちらの意見も聞いてくださって友道先生、乗っている助手さんや厩務員さんとコミュニケーションがすごく取れていると感じます。コースから帰ってきた所で輪乗りをしながらディスカッションをしたり、調教内容を喋ったりすることが多いですね」

【島明広調教助手】


島明広

▲伊藤雄二厩舎時代にはウイニングチケットで1993年のダービーを制覇


「スタッフがそれぞれ色んなことを試せるので、調教助手も厩務員も個性を出せるんじゃないかな。ベテランと若い子たちが切磋琢磨しながら、決められた大枠の中でやりたいようにやらせてもらっています。いま、友道厩舎はベテランや若手のバランスが整っているんじゃないかな。若い子はベテランから心構えや精神論を習うやろうし、ベテランは牧場経験が浅い人が多いので若い子たちに習うこともあります。若い子は僕たち年寄りから何を習うかって言ったら、精神論しかないと思います。体は若い子の方が動くからね。ワグネリアンを担当している藤本(純調教助手)は皐月賞の時にすっげぇ緊張していたと思うけど、「お前が緊張するな、走るのは馬や」って言っていました。先生がいい馬を預かってきてくださって、決められた枠組みの中で自由にさせてもらえるなんてトレセン中を探しても少ないんじゃないかな」

【大江祐輔調教助手】


大江祐輔

▲マカヒキを担当、実家は競走馬の生産牧場で日本大学馬術部出身、海外での研修経験もあり


「先生を筆頭にみんなの団結力がとてもよくて、1頭1頭丁寧な仕事ができていると思います。調教などで感じたことをスタッフと共有して先生とも話すんですが、いろいろ試させてくださることが多いです。その結果、やってみたことが良かったか悪かったかというところまで僕たちで体感できるので、引き出しが増えていくと思います」

【安田晋司調教助手】


安田晋司

▲ヴィルシーナやヴィブロスを担当し、国内外のGI制覇


「スタッフ同士がいい意味でライバルというか、担当馬以外のこともしっかり見ている気がします。『ちょっとその馬、こうじゃない?』と感じたことを意見交換できて、コミュニケーションがしっかり取れますね。団結力がありますし、最近は特に厩舎に入ってくる馬のレベルがさらに高くなっているように感じます」